JAVADA情報マガジン フロントライン10月号-キャリア開発の最前線-

2012年10月号

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中小企業の人材から人財への道しるべ
第3回 なせばなる なさねばならぬ なにごとも ~真正面から真剣に向き合うことで突破口を開く~

栗田アルミ工業株式会社
  KPS・ISO推進室 人財育成チーフマネージャー 勝山 勲 氏 《プロフィール

前回で障碍(がい)者雇用についても「自立と自律」がテーマとなっていることに触れさせていただきましたが、障碍を持つ社員のお母さんとの手紙のやり取りの中で「専門的な知識などなくとも、何とかしなければならないと真剣に向き合うと必ず道は開ける」という言葉がありました。専門的知識などなかった私にとって、この言葉に非常に感銘し、勇気づけられました。

栗田社長は、高校卒業まで山形県米沢市育ちということもあって、上杉鷹山翁の「なせばなる なさねばならぬ なにごとも ならぬは 人のなさぬなりけり」を座右の銘としております。私流には「やれば なんでもできる できないのは その気になって やらないだけだ」と解釈して、真正面から真剣に向き合うことで、いろいろの問題と悩みなどを解決し今日に至っているような気がします。人は「その気」になって、諦めずに真剣に取り組めば、突破口を開き大概のことは成し遂げることができるものと信じております。

 

○職務能力評価基準シート

 「自立と自律」をキーワードとして社員自らが気付き、成長できる仕組みをどうしたら形にできるだろうかと考えていたときに、「茨城県職業能力開発協会」より専門家を派遣していただきました。「中央職業能力開発協会」作成の「職務能力評価基準シート」を参考にして、専門家にアドバイスを受けながら、人財育成プロジェクトチーム・各部署の部課長によって「職業能力評価基準シート」の作成に着手しました。業務についてだけではなく、企業理念や社長の想いなども共通項目に盛り込みました。また、自社特有の業務にも適応させるために、能力ユニットの選択は現場とともに試行錯誤しながら部署毎の職務能力評価シートに落とし込んでいきました。これらの導入から作成そして活用につきましては、中央職業能力開発協会のホームページの「活用事例」の中で公開されておりますので、ぜひご覧ください。

ここではアルミ部品鋳造課の職務能力評価シートについて述べさせていただきます。

 

■訓練期間内における職務内容・訓練・資格取得等

必要事項を網羅しておりますが、後でお話しさせていただきます、キャリア開発シートと重なるところがあります。また、職務能力評価シートは、あくまで自己分析による気づきに重点を置いていることから、人事考課には直接関係ないものといたしました。

1~2年後は総合考課表キャリア開発シート職務能力評価シートを一体化するなどして、個々人の成長・キャリアなど「見える化」に進化させたいと考えております。

 

■職務遂行のための基本的能力評価項目(各部署共通)

 社是としての下記3項目を追加いたしました。

●「元気」~心身の活動の源となる力・健康 〔6項目の評価〕

  * 朝の挨拶・日常的な挨拶は、誰にでも、明るく大きな声でしている。 

  * 普段から姿勢が良く、心身共に健康であり、体調不良による遅刻・早退・欠勤がない。 

  * 日常の会話に活気があり、言葉に覇気がある。

  * 気力・知力・体力が充実している。

  * 作業動作がキビキビとして、標準作業を上回っている。

  * 健康診断で、要注意・要観察・要精検・治療中が無く、全項目が正常である。

   ※ 挨拶は「誰にも」・「いつでも」・「どこでも」・「トイレでも」これが実践目標

 

●「やる気」~チャレンジ意欲 進んで物事をなしとげようとする気持ち 〔7項目の評価〕

  * 仕事を効率的に進められるように、作業の工夫や改善に取り組んでいる。

  * 必要性に気付いたら、人に指摘される前に行動に移している。 

  * 良いと思った事はどんどん上位者に意見を述べている。

  * 未経験の仕事や難しい仕事でも「やらせて欲しい」と自ら申し出ている。

  * 新しい仕事に挑戦するため、資格取得や自己啓発等に取り組んでいる。 

  * 自ら高い目標を設定し、その達成に向け日々努力している。 

  * 「創造と実践の提案」を月に1件は、応募している。

 

●「根気」~努力を継続する勇気 物事を飽きずに長くやり続ける気力 〔6項目の評価〕

  * 一旦引き受けたことは途中で投げ出さずに、最後までやり遂げている。

  * うまくいかない仕事に対しても、原因をつきとめ、再チャレンジしている。

  * 元気・やる気が失せることなく、持続されている。

  * 日々生産計画数量達成のため精進している。また、達成し続けている。

  * 人が見ていない所でも、小さな事でも当たり前のことを当たり前に実行し続けている。

  * 通信教育を年2回途切れることなく受講している。

  

をするにしても「元気」・「やる気」・「根気」の三気が基本であることは、前回でも述べておりますが、これを継続して実践していくことがなかなか難しい。何事も一流を目指すならば、この「三気」を大切にしたいものです。

 

■技能・技術に関する能力

  

(1)基本的な事項(製造部門共通)

 ビジネス知識の習得・PCの基本操作・企業倫理とコンプライアンスなどの他製造部門基礎を追記いたしました。〔13項目の評価〕・・・詳細は職務能力評価シートをご参照ください。 

 

 

(2)専門的事項(各部門毎の必要専門的能力を具体化した)

 ここではダイカスト鋳造部門(鋳造課)の職務能力を掲載させていただきましたので、ご参照ください。 

 

 

(3)管理的事項(各部門毎に共通の重要管理項目を任意で記載)

 アルミダイカスト鋳造部門における生産管理にたいして、共通認識醸成のための項目を追記しました。 

 

 

年1回この職務能力シートにより本人と上司が面談し、足りないところを伸ばして行くための資料として活用し、製造部門では個人別に教育訓練表を作成して、能力・スキル向上につなげています。

 

○人事考課、キャリア開発支援

人事考課は、総合考課表に基づいておこなっています。仕事の成果だけを評価するのではなく、普段の行動や自己啓発などについても評価しています。通信講座受講・専門的セミナー・資格取得状況の記録欄も設けており、欄内に入りきらないほど多く書き込む社員もいます。

2012年4月にキャリア開発支援のため新たにキャリア開発シートを設けました。同シートは、やっと形ができたところで、キャリア開発の進め方・シートの一部見直し検討も含め役員・役席者への理解など情宣活動中で、活用していくのはまだこれからです。

キャリア開発の進め方では、次のことに重点を置いています。特にキャリアについて全般的な理解とワーク・ライフ・バランスとの関係。そして、個々人の中にあるワーキング・ライフの望ましいあり方について、自分の考えを明確にする。また、会社がおこなう支援は、これらを明確にするためのものであることを確認する。

一方では、「自ら気付き成長するキャリア開発に定年はない」ことを基本としています。この基本姿勢を具現化するためにも、消滅する有給休暇を年次有給休暇積立制度として導入し、自己啓発などに利用できることにもいたしております。

当社の人財育成教育体系階層別通信教育講座(推薦)については、プロジェクトチームでの検討を重ねる中で、これまでに実行されてきた研修・教育に、必要とする通信教育・資格・技能講習などを加えて体系化することができました。

特に通信教育は、人を財産としたい「人財」育成の基本である「読む力」・「考える力」・「書く力」の三つの成長を育むものです。この連載の第1回に掲載しました人財育成と経営分析表に受講者数・金額などが記録されております。2001年(平成13年度)の年間通信教育受講者は40名でしたが、5~6年の経過とともに、受講者数は年間150名程度にまで増加しました。また、受講者のうち優秀賞(平均90点以上)の表彰を受ける社員が30%台から50%~60%に増大しています。こうしたことからも、着実に人材育成は進んでいるものと思っております。

教育体系図は、実行計画があって活かされるものであり、その意味ではこれまで実践・実行してきたものを落とし込み、足りないところを追加していったことの意義はとても大きいものであると考えています。

社員一人一人の成長が会社の成長につながり、経営トップの社員(人)を大切にするという想いをどのように具現化してきたか、これまでの報告書でご理解いただければ幸甚の極みでございます。

                                   

                                   

次回で最終回となりますが、これまでのことを取りまとめ、人が財産になってきたことの事例などを含めご紹介したいと考えております。

                                    

                                    



〔脚注〕

i.  (うえすぎ ようざん 1751-1822)米沢藩の第9代藩主。江戸時代屈指の名君として知られている。






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