JAVADA情報マガジン フロントライン9月号-キャリア開発の最前線-
◆2012年9月号◆
中小企業の人材から人財への道しるべ
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栗田アルミ工業株式会社 |
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前回は、「経営戦略と経営開示」について、実践を通じ、まずは経営管理層における共通認識を醸成することの重要性を述べ、何をやるにしても会社の金回りを良くすることが先決であることから、その手法についても説明いたしました。逆説的には、金回りの悪さは、何をやるにも中途半端、長続きしないといったリスクを高める大きな要因となることでしょう。 製造業における人材育成については、「物つくりの前に人づくり」だと言われております。「人」は誰でも無限の能力・才能を秘めており、それを開花させるため教育・修練・鍛練も含めて、本人自らが向上心・探究心・チャレンジ精神などの強い精神力を持つことにより一流に育つものと信じております。 私ごとですが、68歳の今でも、計算なら電卓を使わずに、暗算では3桁~5桁、算盤(そろばん)なら5桁~12桁以上であっても、人より早く正解が出せます。何故なら小学4年から中学、高校、そして社会人になっても、35歳頃まで算盤をやり続けたおかげです。これは、まさに「継続は力なり」を立証しております。その途中では、サボったり・叱られたり・挫折感を味わったりして、算盤を止めようと思ったことが何度もありました。しかし、こうして長く続けられたのは、厳しい両親・先生に恵まれたおかげかも知れません。久しぶりに次の言葉を思いだしました。 教育とは 子を養いて、教えざるは、父母の愚なり。 訓導して厳ならざるは、師の情けなり。
○人財への道しるべ前回報告しておりますが、当社の経営理念が分析され、経営課題を明確にし、社長の想いをまとめて、経営開示も含め全社員に周知徹底できたことにより、「人材育成」の必要性が十分認識されました。 特に経営課題の「技術力向上と人材育成」の具現化のため専門プロジェクトチームでは、「優秀社員」になるためには、「人財への道しるべ」として、“何が必要”で“何が大切”なのかを、アンケートにより明確にしました。そして、それまで漠然としていた考課表を改訂し、新しい総合考課表で社員一人一人が確認できるようになりました。 この改訂は、人材から人財への努力評価、人財への資質評価、職務能力評価など当社の実態に即した項目になったことが大きな特徴であると言えます。 1、人材から人財への努力評価(良い人財になるために) ・朝のあいさつが、明るく大きな声で、元気にできる。 ・言われて行動するのでなく、自分で考え考動できる。 ・仕事は最後までやり終え、約束の期限・期日を厳守している。 ・決められたこと、決まったことをやりぬいている。 ・進んで協力して、組織全体の能率向上に寄与している。 ・自分の職責・役割・周りの期待を十分に理解し、考動している。 ・ミスやクレームなどの「報・連・相」がキチンとできる(含む処理)。 ・常に「どうしたらできる?」を考え、考動している。 ・常に問題意識を持ち、チャレンジ精神で前向きに取り組んでいる。 ・必要な知識・技能を常に習得しようと努力している。 2、人財への資質評価 ・規律性 ・協調性 ・積極性 ・企業意識 ・原価意識 ・仕事の質 ・仕事の量 ・仕事の成果 計8項目 (アンケートをご参照下さい) 3、職務能力評価 ・自己管理 ・基礎知識と実務知識 ・熟練度と経験度 当社の「優秀社員」の細目が明確にされましたが、人材育成の基本方針は人を評価することではなく、「自立と自律」をキーワードとして社員自らが成長できる仕組みと会社がそのための支援を行うことを基本としています。
○人財育成・キャリア開発の方針■人財育成方針常に変化する「顧客ニーズ」・「競争環境」・「社会環境」に対し、「変化」が激しく、絶対的解決策がない今日。当社のビジネス成功と経営理念の達成に向けて『変化』に対応することができる人財を、スピードをつけて育てることが必要不可欠です。 ■キャリア開発基本方針【教育の目的】すべての社員の自立と自律を支援し、「経営理念」・「社長の想い」を達成するために資することを目的とします。 【教育の機会】すべての社員は、就業規則第62条「教育研修」、同64条「自己啓発」により教育を受ける機会を有しており、自らが業務上の知識、能力、技能を高めるために、担当部署の上司はその機会を与える措置を積極的に講じるものとしています。 【教育の方法】社員の教育は、職務能力評価シートにもとづいて行われ、担当部署の上司は、本人と上司相互の納得・理解に努めた上でキャリア開発を推進します。
「自立と自律」は自分で決め、決めたことをやりぬくというのが基本です。本人がその気にならないと能力を開発することなどできませんので、そこが出発点になります。人の能力は無限です。会社はすべての社員に成長の機会を提供しますが、その上でやるかやらないかは、本人次第だということになります。
○人財とは人財の基本要件は、「自分の意見が言えること」・「向上心・積極性があること」これらが自立と自律に通じるものと言えます。 ■当社の求める人財像当社創業以来「元気」・「やる気」・「根気」を社是とし、当社のマークになっており、社員のユニホームにも縫い付けられています。当社の求める人材像は、第1に「明るく元気であること」、第2に「自分の意見が言えること」、第3に「向上心、積極性があること」。つまり、「まず『元気』であること、そして旺盛な向上心、探究心を継続して持ち続け、活かすことができる人」これが当社の求める人材像です。 何をやるにしても、まず『元気』であることが大切です。「元気」であれば、「やる気」もでて、「活気」もでる。「根気」よく続けて、「勇気」を持って、「本気」になれば自分の「運気」が強まる。一人一人の運気が強まれば、家庭の運気も、会社の運気も強まるという七つの『気』が秘められています。 『元気』のバロメーターは、“朝の挨拶”にあると言われております。栗田社長が毎朝7時から8時まで正門の前で立って社員を迎えていることは、人材から人財への初めの一歩として「朝の挨拶を明るく大きな声で元気に行う」ことを実践していることにあるからです。 それと同時に門から会社に一歩でも入ったら、1日を元気に楽しく働いてほしいと願うものでもあります。何故なら体調不良で「弱い気」、仕事上の悩み、家庭での悩みなどの「悩みの気」、家庭、会社に対しての「不満の気」などは、どれもこれも「物つくり」を阻害するものとなります。製品の中にこれらの『気』が充満して、「元気」の『気』が十分入らなければ、結果として不良製品の山になることの確率が高くなるからです。病気になったら無理をせず、治療・治癒してから出社していただくのもそのためです。 仕事とは、人と人との繋がりの中で、丸く流れるようにする。 そのためには、 1、元気であること(体調管理は自己責任) 2、危機意識を持て(注意一秒、ケガ一生など) 3、互助精神を持つ(お互いに助け合う) ■様々な人財終身雇用を前提とする当社としては、高齢者雇用・障碍(がい)者雇用・育児介護休業・外国人労働者雇用等々、法令順守も含めて避けて通れない問題の解決について、真正面から真剣に向き合うことで道が開け、今日に至っていることを確信いたしております。 たとえば障碍者雇用についてはハンデがある「健挑者」(健康に挑戦している人)として、特に障碍者のためだけに職場環境・機械・設備改善を行うことはありません。基本は、ハンディキャップ部分には手を貸すが、それ以外は健常者と同じく扱っています。どのような障碍があっても、いずれは一人で生活することになることでしょう。 一人で生活するためには、自立(独り立ちできる)と自律(自らをコントロールできる)が大前提であり、そのための教育・指導は、「施設」・「学校」・「会社」が三位一体となって対応することが必要です。当社は、平成22年度障害者雇用優良事業所厚生労働大臣賞を受賞しておりますが、当社の取り組みは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者雇用事例リファレンスサービス(平成2010年度に作成)に詳記されておりますのでぜひご参照ください。
会社は、個々人の集合体であり【会社=社員】の等式が成り立ちます。社員一人一人の成長が会社の成長につながり、社員を大切にしたいという栗田社長の想いをスピーディに具現化するには、今一歩踏み出す力の必要性を感じておりました。次回は職務能力評価シート・教育体系化などについて、どのように取り組んできたのかご説明したいと思います。
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