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2012年8月号

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中小企業の人材から人財への道しるべ
第1回 「経営戦略と経営開示」~共通の認識醸成

栗田アルミ工業株式会社
KPS・ISO推進室 人財育成チーフマネージャー 勝山 勲 氏 《プロフィール

これから4回にわたって当社の実践事例を記事として書かせていただきます。どこまでお役に立つかはわかりませんが、特に「中小企業における総合的な経営改善取組み」と「人財育成の実践」のご参考になれば幸いに存じます。

○経営戦略の展開と経営開示

経営は、「戦い、そして勝て」。そのためにはそれらを取り巻く問題点を踏まえた総合的な経営改善の取組みが必須条件となってきます。財務改善、安全衛生、福利厚生、能力開発、定年延長、育児介護制度、技術伝承、事業承継、健康管理、教育訓練、情報共有化等々どれもこれも経営の枠組みとして必要不可欠なことは言うまでもありません。

会社の悩み、問題の項目などは同じということはありませんが、経営の3要素、「人」・「金」・「物」+「情報の課題優先順位と具体的取組み」について当社を通じて考察してみたいと思います。

◆ 人 = 永続的に大切にする。⇒ 終身雇用制度の堅持 ⇒ 定年時期は自ら決める。
◆ 金 = 金回りを良くすることが先決。⇒  金回りが良くなれば物はついてくる。
◆ 情報 = 共有化(パソコンの普及を含む) ⇒ 経営開示 ⇒ 情報の共有化により共通の認識を醸成する。

1999年2月、最低6ヵ月先までの収入・支出・繰越金など明細がわかる自社に合った資金繰表をPCで作成。同年3月には独自の月次決算を導入し、前年度実績・予算・月次実績で資金・収益状況の把握を行いました。その一方では経営分析によって、病巣がどこにあるのか、どのくらいの期間で改善できるのか、また予防措置の必要なことは何なのかなどを診断することができ、改善取組が図れることになります。

 

○経営開示

改善すべき項目・取組みをする上で必要なことは、経営管理層の共通認識が不可欠であり、「気付きの視点」からこれまで開示していなかった資金繰表・月次決算・中間決算・本決算・経営分析・資金運用表などを1999年4月より順次開示して、経営に関しての共通認識の醸成に努めてきました。その結果、問題解決に向けた早めの対応が確かなものになりました。

 

○人材教育面へ着手

2001年度(平成13年度)より人材教育について、通信講座・資格取得・社外セミナーなどの受講費用は、会社の承認(部課長以上)ですべてを会社負担とし、本格的に人材育成に着手。費用捻出については、栗田社長からの配慮をいただき交際費を年々減額して教育費に充当しています。(人材育成と経営分析表)

特に自動車アルミ部品鋳造から機械加工・一部組付けまでを得意分野とする当社は、装置産業の特徴として設備投資は不可欠であり、資金調達と人材育成の両面から平成13年2月に茨城県経営革新事業認定を受けたことで、本格的な人材育成に取組むことができたことは確かです。

一方、「人="社員"を大切にする」考え方として、栗田社長は毎朝7時から8時まで雨の日も、風の日も雪降る日も、社員の出勤を正門で迎えており、そこには「人を大切にすることは、お金も、物も、情報もすべて大切にする原点につながる」とする栗田社長の強い信念があります。平成3年には60歳定年から65歳までの継続雇用を実施しており(平成12年10月高年齢者雇用開発厚生労働大臣奨励賞受賞)、平成20年10月には就業規則を全面的に改定し、「定年時期は、自らが決める」ことにより実務上は定年を廃止。1年毎の継続雇用制度を実施、現在でも最高齢者75歳の男性社員も元気で働いており、社員が働く意志と能力がある限り、70歳までの雇用を可能にしています。

それでも経営面の問題、悩みはつきないもので以下の改善取組が課題でした。
  1、金回りが悪い =  借入金が多い、キャッシュフローが悪い(資金流出) 等々。

  2、社長の想いが末端まで届かない。

  3、経営情報が限られた人にしか伝わらない。

 

○経営戦略検討委員会(プロジェクトチーム)の発足

経営課題改善取組の次の一手を考えていた時に、現在のいばらきIT人材開発センター主催のIT化セミナーを受講して、そこでご指導をいただいたITコーディネータ(ITC茨城)による10日間無料診断を受けることができ、この機会に経営管理層による経営戦略検討委員会を発足(2004年11月)させて、ITCによるコンサルティングがスタートしました。

これまで経営問題・改善検討など皆無に等しかった当社だったが、経営管理層全員によるプロジェクトチーム(3チーム)を編成し、専門家を巻き込んで、当社の「企業理念」・「社長の想い」・「経営課題」などを明確にし、その課題改善をIT化に結びつけ、且つ当社の人材から"人財"育成にシフトするなど大きな影響を受けたことになりました。

 

○「経営理念」の分析と「栗田社長の想い」

当社の経営理念は、「地球環境を守り、当社および当社に携わる企業の繁栄とそこに働く社員と家族の幸せを願い、魅力ある企業を目指す。」。そのために「元気・やる気・根気」を大切にする。この企業理念について、何となく理解できる程度で全社員に浸透する狙いからプロジェクトチームでそれぞれに分析を行い、併せて社長の想いもプロジェクトチームでまとめ上げたことの意義は大きなものでした。

■経営理念4つのキーワード

1、地球環境を守る ---- 企業の社会的責任
2、企業の繁栄 ---- 企業の経済的責任
3、社員・家族の幸せ ---- 企業の社会的責任・経済的責任
4、魅力ある企業 ---- 企業の社会的責任・経済的責任及び企業の製品/製造/販売に関する責任を包括し、企業責任のいずれを欠いても魅力ある企業には成りえないことが確認されました。

■ 社長の想い

日本の中小企業の99%に及ぶほとんどが同族経営であり、且つ借入金負担も多く金融機関からは社長・家族・第三者保証を求められている企業は少なくない。社長は、すべての財産を経営のため注ぎ込んでおり、企業経営への想いは誰よりも強い。常日頃の社長の言葉・行動をプロジェクトチームによって、「社長の七つの想い」にまとめ上げることにより、経営層と幹部社員、そして当社のIT化を含め経営課題改善に以後深く関わっていただくことになる専門家諸氏との間で、認識の共有化が図れました。認識の共有化は、企業経営に関わる強い集団が組成できたことを意味します。

【社長の七つの想い】

  1. 1、社員は財産(人材を人財にしたい)
  2. 2、財務リストラはするが人材整理は絶対にしない
  3. 3、6S(整理・整頓・清掃・清潔・躾 + スピード)の徹底
  4. 4、継続的収益確保(黒字決算確保)
  5. 5、技術力向上
  6. 6、不良低減
  7. 7、企業理念の浸透

 

○経営課題と改善取組

経営戦略検討委員会の発足前に役席から経営管理層全員に当社に何が不足し、経営理念達成のための経営課題は何であるかなどのアンケートを実施し、3つの経営課題にまとめることができました。

  1. 1、技術力の向上と人材育成
  2. 2、生産管理の再構築とIT化
  3. 3、社内コスト削減と原価管理

2004年11月より、3班編成のプロジェクトチームに4名の専門家の方々が加わり、半期に1回国民宿舎を利用して、1泊2日の経営課題改善取組検討会を2008年11月まで続けてきました。現在では社内プロジェクチームにより、月/1回の検討・実績等の報告会を行っています。

*2005年 5月 IT経営百選」 奨励賞受賞
*2006年10月 「IT経営百選」 最優秀賞受賞
*2006年12月~2007年2月(平成18年12月~平成19年2月)
  全社員を職制別・年代別にグループ編成し、企業理念・社長の想い、経営課題改善取組、自社の強み・弱みなどの再確認を行い、財務、月次決算、資金繰等の経営状態を開示し、特に「企業理念」・「社長の想い」を末端まで浸透させて、経営管理層とパート職員も含めた社員との共通認識醸成に努めることができました。

「企業理念」は、経営活動に対する経営思想であり、経営哲学そのものです。この経営活動を円滑に運営し、成果を上げるのは社員という人材です。栗田社長のこの「社員を宝にしたい人財への願い」をどのように具現化し、有為(才能があり、役に立つ)な人材の育成については、次回以降に当社の実践を交えて考察したいと思います。

 

 


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