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2012年7月号

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組織開発とキャリア開発
第4回 組織開発を実践するために

アイピーシー 代表 文川 実 氏 《プロフィール

本連載も4回目を迎え、いよいよ最終回になりました。そこで、今回は、組織開発を実践するための要点として、(1)組織開発を効果的に進めるために、チェンジエージェントには、どのような能力が必要とされるか、(2)組織開発の一般的な手順はどのようなものか、について説明したいと思います。

○組織開発を効果的に進めるための10の能力

組織開発は、組織の人的要因(プロセス)に働きかける取り組みです。したがって、組織開発の推進者であるチェンジエージェント(コンサルタント)に求められる中核的な能力は、具体的な介入テクニックをあれこれ数多く知っているということより、むしろ、傾聴をはじめとしたヒューマンスキルのレベルが高いかどうかだといわれます。このことは、個人の内的要因に働きかけるキャリア開発の支援者(キャリアカウンセラーなど)に求められる能力と同じと考えてよいでしょう(もっとも、本連載の第2回目に掲載した図表「組織開発で用いられる手法の位置づけ」には、キャリア開発が含まれていますから、当然といえば当然かもしれません)。

以下に、バーク(19878)によるチェンジエージェントに求められる10の能力を示します。以上のことを前提にお読みいただくと理解しやすいと思います。

1.あいまいさを許容する能力

組織が抜本的に変化したり成長したりするためには、過去の成功体験や既存のルールに縛られることが障害になります。したがって、チェンジエージェントには、不透明さや不確実さを恐れすぎず、あいまいさを許容しながらゼロベースでものごとを進められる能力が必要とされます。

2.影響を与える能力

自分の気持ちや考えなどを他者に伝えて賛同を得たり、異論を持つ相手に対しても、きちんと向き合いながら説得することができる能力のことです。ただし同時に、自分自身の個人的なパワー欲求に対して気づき、慎重であることも忘れてはなりません。

3.困難な課題に対決する能力

組織開発の過程において、メンバーが意識的または無意識的に避けたい課題が次々と立ち現れるかもしれません。チェンジエージェントは、まずは自分自身が、そしてまた組織全体が、そこから目をそらさずに対決できるよう努めなければなりません。

4.他人を支持し、育成する能力

組織を率いるマネージャーがはじめてチーム作りを経験するような場合はもちろんのこと、組織内に対立が発生しているときなどには、特にこの能力が必要とされます。中立性は保ちながらも、支え、励まし、成長を待つことが大切です。

5.傾聴し、共感する能力

人的要因に働きかけるためには、メンバーそれぞれの考えや思い、感情、価値などにしっかりと耳を傾け、共感的に理解することが不可欠です。もちろん、組織が強いストレスにさらされているときなどには、なおさら必要な能力です。

6.自分自身の感情や直観を速やかに認識する能力

自分自身のものの見方・考え方と他者のものの見方・考え方には差異があることを前提に、「自分が、今、何をどのように感じているか」を敏感にとらえる能力です。自分の気持ちの動きなどを媒介に、今ここで生じていることをとらえるスキルと言い換えてもよいでしょう。

7.概念化する能力

さまざまな因果関係や構造などを抽象化したり、言語化したりする能力のことです。現状を分析し、理解を共有するためなどに必要なものです。

8.自分自身およびクライエント組織の双方において人的エネルギーを発見し、動員する能力

葛藤や抵抗が生じた場合でも、どこかに活用できるエネルギーを見つけ、それが向けられるべき方向性を示し、開放するように促す能力のことです。

9.教える、あるいは学習の機会を創り出す能力

チェンジエージェントは、組織全体やメンバーそれぞれの学習を促進する役割も担います。そのためには、Off-JTの場だけでなく、現場での作業やミーティングの場などにおいても、知識やスキル、経験を豊かにできる機会が生み出されるように努めるべきでしょう。

10.将来の展望を持続するために、ユーモアを維持する能力

ときには、緊張感を和らげ、リラックスするために、ユーモアを発揮することも大切です。組織の目標が、大きな変化や成長を目指すものであればあるほど、道のりは長く予期せぬことも起こりがちです。組織が過度に深刻になったり、閉塞しないように気配りすることも意味があります。

 

○組織開発の一般的な手順

組織開発は、それぞれの組織のありようにもとづいて、オーダーメイド的に行われる支援です。したがって、細かく定められた固定的な手順というものは存在しないのですが、多くのケースに共通する実施のステップがあることも確かです。

下記に、伝統的な組織開発の手順(ODマップ)とよばれるものを記します。これまでの総まとめとして、組織開発の概要理解のためにお読み下さい。

1.エントリー・契約

クライエントとコンサルタントの初めての接触によって始まる局面です。この段階では、ラポールの形成やこれからの取り組みの方向性の確認、重要人物(トップマネジメントなど)のコミットメントの確認などが行われますが、その後、クライエントとコンサルタントの間で契約が結ばれます。契約が単なる手続き上のものにとどまらず、クライエントの当事者意識を前提とした心理的合意にいたっているかどうかが、全ステップを通じて最重要なものとなります。

2.データ収集

クライエントの現状把握のためのデータ集めの段階です。質問紙やインタビュー、観察、過去に作成された文書の読み込みなどを通じて行われます。

3.データ分析

収集されたデータから、クライエントの持つ特徴や傾向などを掴む段階です。行動科学の理論なども応用して、本質的、構造的にとらえることが求められます。

4.フィードバック

データ収集と分析の結果をクライエントに伝えてコンセンサスを得ることで、変化への動機付けを高める段階です。

5.変革のための計画策定

フィードバックの結果にもとづいて、変革のための具体的なアクション計画を作る段階です。少数のトップが主導するかたちはとらず、可能な限り多くのメンバーを巻き込み、民主的に決定していくことが成否のカギになります。

6.計画の実施

計画されたアクション計画を実行する段階です。ここでも、できる限り多くのメンバーを巻き込み、努力が持続されるように努めることが大切です。

7.評価

どの程度、目標が達成されたかどうかを、データ収集と分析によって確認します。十分な評価が得られない場合には、再び、最初のステップ(エントリー・契約)に戻り、心理的合意を結ぶところから再スタートします。

8.終結

十分な評価が得られた場合、クライエントとコンサルタントの合意によって終結となります。

4回にわたって、組織開発という「古くて新しいもの」を紹介してきました。その意図は第1回でもお伝えしたように、ここに日本企業が競争優位を取り戻すための大きなヒントがあるのではないかということと、加えて、キャリア開発というものを組織開発の枠組みでとらえたときに、さらなる価値が見いだせるのではないかということにあります。今回の拙文が、少しでも、読者の皆さまの参考になるとしたら幸甚です。

 


◆参考文献

  • W.ウォーナー・バーク(著)、小林薫(監訳)、吉田哲子(訳)(1987)『〔組織開発〕教科書』プレジデント社
  • 中村和彦(2007)「組織開発とは何か」『人間関係研究』南山大学人間関係研究センター
  • Brenda B. Jones 、Michael Brazzel(2006)『The NTL Handbook of Organization Development and Change』Pfeiffer

 

 

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