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2012年6月号

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組織開発とキャリア開発

第3回 組織開発における「プロセス」とは

アイピーシー 代表 文川 実 氏 《プロフィール

○プロセスの9つの要素

前回、組織のさまざまな活動は、コンテント(仕事の結果)とプロセス(関係的過程)を車の両輪にすると説明しました。2つのうち、どちらか一方でも欠けてしまうと、遅かれ早かれ、組織はうまく機能しなくなります。けれども、我々はつい、目に映りやすいコンテントばかりを重視して、プロセスを軽視しがちなのです。あるいは、プロセスを観察したり関わったりするための視点を持たないがために、コンテントに偏重してしまうのかもしれません。

以下に、プロセスの諸要素を9つで示します。組織開発でいうプロセスを具体的にとらえるための視点がこれらです。

1.メンバーシップのありよう(個々のメンバーの様子)

メンバー1人ひとりがどのように組織活動に参加しているか。コミットメントの程度や感情(安心、不安、落ち着き、防衛、欲求不満など)、あるいはそれらの変化などを指します。

2.コミュニケーションのありよう

発言の偏りがあるかどうか、一方的か双方向的か、主張的か応答的か、知的レベルのやり取りと感情レベルのやり取りの両方が行われているかなどです。組織が成長してくると発言の偏りは少なくなって、双方向的、応答的なコミュニケーションが増えます。また、感情レベルのやり取り(「やる気が出てきた」、「心配だ」、「楽しい」など)が増えることも組織が成長してきた指標になります。

3.リーダーシップのありよう(影響関係のありよう)

ここでいうリーダーシップとは、肩書き(部長、チームリーダーなど)によって制度的に定められた地位や権力のことではなく、メンバー相互の影響関係を意味します。メンバー各人が、どんな場面のときに、どんな役割を果たしているか、それに対して周囲がどんな具合で反応しているかなどのことです。成熟した組織は、リーダーが固定しておらず、状況に応じて自由に入れ替わるなどします。また、リーダーの役割行動は、課題達成を志向するもの(口火を切る、アイデアをまとめる、など)と関係維持を志向するもの(緊張をほぐす、気持ちを確かめる、など)にわけることができます。

4.ノーム(規範)のありよう

ノームとは組織の中の決まりごとのことですが、特に暗黙のうちに共有されているものが重要です。例えば、会議での発言の順番などが、特に明示されていないのに決まっているとしたら、それはノームかもしれません。ノームが組織活動にプラスに働いているときはよいのですが、マイナスに働いている場合には、意識的に指摘し合い、変革しなければなりません。

5.意思決定のありよう

意思決定のスタイルには、1人による決定、少数の者だけによる決定、多数決、コンセンサスによる決定(全員の合意)、暗黙の決定などがあります。どのように意思決定されたほうがよいかは、重要度や緊急度、メンバーの数、組織風土などにもよりますが、どんな方法であれ、決定までの一連の過程が共有されているかどうかが不満や不信感の低減、主体性の喚起につながります。

6.目標のありよう

組織の目標が、各々のメンバーにどのように理解されているか、どの程度のレベルまで共有されているかなどを指します。仮に目標が明文化されていたとしても、その解釈はメンバー1人ひとりで違うかもしれません。今ここで何を目指すのか、最終的にどのようになりたいのかなどが、丁寧に確認されているかどうかが組織の活動には欠かせません。

7.時間管理のありよう

誰がどのように時間管理を行っているか、それはどのように取り決められているか、厳密さはどの程度か、時間管理による影響はどんな風か、などを指します。

8.組織化のありよう(仕事の手順化のありよう)

課題達成のために、どんな手順が決められているか(あるいは決められていないか)、分担や調整の仕方はどうか、手順は共有化されているか、などを指します。

9.雰囲気

組織に漂う雰囲気を言葉で表すとするとどんな感じか(暖かい、冷たい、開放的、閉鎖的、支援的、攻撃的、なれ合い、緊張、ゆるい、きっちり、など)、誰がその雰囲気を作っているか、その影響はどのように出ているか、などを指します。

以上を観察するときには、言語的なやりとりだけでなく、非言語的なやり取りが大きな手がかりになります。言葉で表現されている以外の態度や身振り手振り、声の調子、表情、視線など、言い換えれば、議事録に残らないような内容にも焦点を当て、見ていくことが必要です。                    

                         

○組織開発の中核的な理念~プロセスコンサルテーション

「キャリアアンカー」の理論で有名なエドガー・シャインは、プロセスへの働きかけを通じた組織に対する支援を、プロセスコンサルテーションとよびました。コンサルテーションというと、外部の専門家からの介入に限定してとらえがちですが、ここでは、組織の内外を問わず、チェンジエージェント(変革の推進者)による援助的な働きかけを意味します。プロセスコンサルテーションは、手法というよりも、組織開発の中核的な理念です。したがって、その意味を知ることは、組織開発の目指すものを理解することにつながるでしょう。プロセスコンサルテーションは、次のように3つのモデルの対比で説明されます。

1.情報-購入モデル

組織が、自分では手に入れられない希少な情報や専門サービスなどを、外部から調達することで改善するというモデルです。組織自身が自分の状態を診断し、ニーズを的確に把握し、それを満たす資源を提供してくれる相手を選び、アクセスする能力を持っている必要があります。すでに備えている判断や行動の枠組みにそった改善はされても、抜本的な変革は期待できません。

2.医者-患者モデル

専門家による診断を通じて、課題や問題点を発見し、そのための改善策を提供してもらうというモデルです。専門家の診断能力や組織が自らの内部情報をどこまで開示できるかが成否を左右します。また、提供された改善策に有効性があっても、過去の成功体験や固定観念などから組織自身が変化に抵抗を表し、実行されずに終わってしまうこともあります。このモデルも、既存の枠組みを超えた抜本的な変革には困難を伴います。

3.プロセスコンサルテーション・モデル

組織が、「自身の内部や外部環境において生じている出来事のプロセスに気づき、理解し、それにしたがった行動ができるようになる」(E.H.シャイン、2002)ことを支援するモデルです。専門家からの情報提供や診断・治療といったかたちではなく、組織自身が、自分たちの歩みたい方向を見つけ、自力で歩き出せるように援助するあり方ともいえるでしょう。シャインは、「『魚を与える代わりに釣り方を教えなさい』という諺がこのモデルには良く当てはまる」と表現しています。プロセスコンサルテーションは、組織が自らのプロセスに気づき、自分自身でそれに働きかけるようサポートすることを意味しますが、確かにそれは組織開発の中核理念といえるでしょう。

                    

では、このような中核理念を持った組織開発は、通常、どのようなステップで行われるのでしょうか。次回は、全4回の連載のまとめとして、伝統的な組織開発の7つのステップなどを説明いたします。

 


◆参考文献

  • 星野欣生(2005)「グループプロセスで何を見るか」『人間関係トレーニング第2版』ナカニシヤ出版
  • E.H.シャイン(著)、稲葉元吉・尾川丈一(訳)(2002)『プロセスコンサルテーション』白桃書房

 

 

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