JAVADA情報マガジン12月号 キャリアに関する研究者からの提言【キャリアナウ】

2015年12月号

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企業経営における人事マネジメントの位置づけと役割(3)
『伸びる中小企業の"人づくり"(育成と活性化)』

株式会社パーソネル・ブレイン 代表取締役 二宮 孝 氏 《プロフィール

1.人材像の明確化から人事制度、組織力へ

最終回は"人づくり"をテーマに育成と活性化について考えてみたいと思います。人事コンサルタントとして、企業経営は、まさに人(ヒト)そのものであると感じます。「大企業とは違って、中小企業には優秀な人材がいない」という話を良く耳にしますが、実際はそんなことはないと思っています。
 新卒から揃ってとはいきませんが、ある中小企業では社長から直々に名前が出るなどその期待の大きさが分かります。例えば、年齢でいうと30歳を過ぎたくらいでしょうか、管理職には少し早いが、一足先に課長や所長の右腕としてすでにその任務に当たらせたりしています。処遇よりも先に役割期待を体験させることを重視しているとの印象です。その上、トップ自ら気にかけて逐次フォローしているのを垣間見たりします。
 一昔前のことですが、評価制度で「コンピテンシー」ブームがつづきました。このコンピテンシーは、"高い業績を継続して上げている社員の行動特性"などと訳されています。私はコンピテンシー的アプローチと題して、注目すべき社員をターゲットとして、インタビューやブレーンストーミングを中心に自流で進めてきました。
 例えば、「入社5年目の期待する営業社員像」はどのようなものか⇒その人材が担うべき仕事はどうか⇒求める成果はどのくらいか、⇒また成果に導く行動とは、能力やスキルは、というように人事の基準づくりとして役立てていきました。
 大企業では制度(システム)で機能させていかざるを得ませんが、中小企業は必ずしもそうではありません。シンプルながらも独自のものを設定し、現場主義のもと運用面を重視していけば良いと思います。個人のパフォーマンスに留まるところから総合的な組織力に結集することがカギとなり、これこそがコンサルタントの出番でもあります。

 

2.効果的な能力開発

さて、将来の経営を担う人材を築き上げていくためには、能力開発、育成が重要な課題となります。これは、長期的にみた「ジョブローテーション(計画的異動配置)」と、短期的にみた「OJT(職場内訓練)」と「Off-JT(職場外訓練)」とに分けられます。ジョブローテーションというと大企業の話だと思われるかもしれませんが、中小企業においても最近になってマンネリから脱却して効率化を進めていくためにも、改めて多能化が大きな課題となってきています。さらに中小企業の中には研修担当係を置くなど熱心なところも見受けられます。
 それらの共通点として挙げられるのは、教育をコストとしてとらえるのではなく人材への投資としてみていることです。また、階層別研修の中でも重要なのが、課長などの「初任管理職研修」です。場面によっては、首都圏の雑踏から離れた施設で他社と合同での合宿形式による研修なども有効です。座学だけでなく本音から討議に参加し、夜には酒を酌み交わしての社外の人脈作りというメリットもあります。「同じ課長職であっても、こうも意識が違うのか」と大いにショックを受け、井の中の蛙意識から目覚めたという話を聞いたことがあります。
 また、最近関心が高まっているのが「次世代リーダー育成研修」です。早いうちから管理職候補としてさらに経営層候補に至るまで、将来を見据えて競争意識を高め、計画的に人材育成を図っていくものとなります。
 あわせて目を向けたいのが"海外"です。昨今、中小企業においてもグローバル化がすさまじい勢いで進んでいます。「海外に向け新規事業展開を進めている」という話を日常的に聞くようになりましたが、海外は人材育成の宝庫でもあります。ある中小企業では、30台の精力的な若い人材を海外に送り、担当者は片言の英語を駆使しながら、あらゆる交渉ごとの必要性から現地事務所を確保し、現地のスタッフも採用するなど、まさに雑用から役員クラスの大きな仕事が山ほど待ち構えています。つぶされないよう配慮することはもちろんですが、大きな権限と責任を与えられ、見違えるように成長したという話は多くの企業から聞いています。
 このように、これからは経験豊富な国際人を育成することが喫緊の優先課題となっています。しかし、残念なことに最近若い人の間では海外赴任に尻込みをする人が増えているというニュースを聞き、危惧しています。
 研修については、人事コンサルタントの立場からも述べておきたいと思います。
 まずは評価者研修や「目標管理:MBO」の目標設定研修は必須のものとしてお勧めしたいところです。フィードバック面接実習なども効果的なので一度は実施していただきたいと思います。
 また、最近のマネジメントの傾向として"全方向型の情報伝達"が求められてきていることを背景として、「コミュニケーション基礎研修」から始めたり、さらに面接にあたっての傾聴姿勢に関心を持っていただき、「リスナー研修」に発展したりすることもあります。
 部下から上司という方向から捉えてみれば、「リーダーシップ研修」に対する「フォロワーシップ研修」、「評価者研修」に対しては「被評価者研修」も必要だとの理解も進んできています。これをみても分かるように、これからの人事管理は、一方通行では決してうまくいきません。双方向からのバランス配慮が行き届いた総合力アップが求められています。
 一方で注意しなくてはいけないのは、パワハラを始めとしてハラスメントの問題です。我流を貫く熱い上司に対しては要注意事項となっており、現場の「労務管理研修」も欠かせなくなってきているのが現状です。

 

3.動機づけ、やる気からの活性化

さて、"人づくり"と切っても切り離せないのが「活性化」の問題です。私がコンサルティングを始めるにあたって重視するのは、初めてその会社を訪問した時に感じる独特の空気です。受付の応対から始まって、机の配置、電話での応対や社内の社員同士の会話など全てから伝わってくるものです。
 さらに休憩時間などで洗面所や食堂で社員が集まる所に行くとよりはっきりと伝わってきます。もちろん、業種や業態、社歴、地域性からくるもの等さまざまですが、会社が活性化しているのか沈滞していのかも伝わってきます。いうまでもなく、活性化とはいっても単に賑やかということではありません。静かではあっても一人ひとりの表情と仕事ぶりから内に秘めたエネルギーを感じることもあります。
 では、この活性化しているとはいったいどのような状況を指しているのでしょうか?
 まず個々の「社員の側」からみてみましょう。

①目標意識を明確に持っている。
②問題点はあるが解決への方向性がみえていて、迷いや戸惑い、不安がない。
③仕事に熱中できる環境に満足している。
④仕事そのものに魅力を感じており、社内でもそれが重要だと思われている。
⑤責任に応じた権限が持たされ、仕事を任されていると感じている。
⑥マンネリに陥らず日々変化があり、達成感を感じている。
⑦将来に向けて自分が成長しているという実感を持っている。
⑧自分のやっている仕事が、広く社会にも役立っているという充実感がある。
⑨自分の仕事と成果が適正に評価されているという信頼感がある。
⑩賃金など処遇が適正である。

次に、これを「組織の側」からみるとどうでしょうか?

経営トップが将来に向けた方針を明確に伝えており、個々の社員もそれを前向きに受け止めている。
日々の報連相から朝礼、会議においてまでコミュニケーションは闊達かつ良好である。
自主性が尊重されている一方で、緊張感も維持されている。
仕事に魅力を感じるためには何が大事なのか、トップから上司、部下も巻き込んで真剣に突き詰められている。

さらに「人事制度」の面からみるとどうなるでしょうか?

個々の社員の能力を開発することと、将来に向けて新たな成果を生み出していくことに重点が置かれている。
信賞必罰も含めて一見大胆にはみえるものの、リカバリーもある柔軟さを兼ね備えた制度であり、一方では細心な運用を心掛けている。

 

4.締めくくりとして

人間というのは底知れぬ可能性を秘めていると感じる時があります。人は機械でもコンピューターでもありません。それぞれに個性があって夢と達成意欲を持ち合わせています。
 社長から新入社員に至るまで、それぞれ役割は異なるもののお互い人間として尊重できる組織風土を築き、出会いをきっかけに定年まで個と組織が相互に影響しあってエネルギーを最大限発揮できる会社を目指していただきたいと思います。
 このためにも人事が大変に大事となります。しかしながら、コンサルタントからみても人事は時によって変わりゆくものでもあり、大変難しいと感じます。だからこそ、人事のあり方を科学的に追求しながらも、一方では現場にしっかりと目を向け、偉大なる人事の常識のもとに奇をてらわず粛々と行っていかなくてはいけないのだと日々感じています。

 

 

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