JAVADA情報マガジン11月号 キャリアに関する研究者からの提言【キャリアナウ】

2015年11月号

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企業経営における人事マネジメントの位置づけと役割(2)
『伸びる中小企業の組織づくり』

株式会社パーソネル・ブレイン 代表取締役 二宮 孝 氏 《プロフィール

前回は人材戦略を取り上げましたが、今回は組織化戦略(組織づくり)について考えてみたいと思います。企業における組織編成はどうあるべきか、またどう機能させるべきかは人事制度改革を進めていく前段階における重要な課題になります。

 

1.「組織図」から、企業の本質を"読み取る"

私は、人事コンサルティングを始めるにあたって、まずその会社の「組織図」を拝見してからのインタビューから始めます。組織図は、対外的で表面的なものに過ぎないと思われる方も多いでしょうが、じっくり見据えるとその企業における「マネジメントの本質」が浮き彫りにされてくるものです。
 チェックポイントは、以下のとおりです。

  • ①企業組織の基本構成は、部-課-(係)であることはいうまでもないことですが、企業規模以上にいつの間にか過大組織となっていないか。
    -設置されているポストの数は企業規模、実態からしても適正か。
  • ②機能別組織か、製品別組織か、地域別組織か、経営方針のもとに明確に編成されているか。
  • ③社長室や監査室、また特命委員会などの位置づけはどうなっているか。
  • ④(組織図にはない)プロジェクト組織、チーム制については必要に応じて的確に編成されているか。またそれは機動的なものか。
  • ⑤職制からみてのライン、またライン長の位置づけは明確になっているか。
  • ⑥いわゆる代理職や補佐職とラインとの関係はどうなっているか。
  • ⑦指揮命令系統という見方からするとどうなっているか。
    -稟議などで上層部に上げる際に必要以上の時間や事務的な手間暇、ムダがないか。
  • ⑧経営ビジョンに沿って柔軟に機能しうる組織となっているか。知らず知らずのうちにセクショナリズムに陥ってはいないか。

以上から、組織図とは、本来は経営トップの将来に向けた事業構想が見えてくるべきものというのが私の持論です。

 

2.実際の問題事例から

実際のコンサル例から追ってみましょう。創業10数年のある販売会社は、トップセールスのもとにこれまで営業マンを増やすことに力点が置かれてきました。その結果、営業部門では本部制のもとに部や課の数が大企業並みに多かったのです。一方で、間接部門については手薄になっており、マーケティング企画に関する部署が存在せず、しかも人事課もまだなくて総務部員が人事スタッフを兼務していました。
 一見してギャップを感じたので、経営トップに業種や規模に応じた標準的な組織図を提示したうえで、「これからの組織体制はどうあるべきか」突っ込んだ協議を行いました。もちろん他社と横並びで考える必要はありませんが、そこには、「あるべき仕事に人をつける」というよりも、「今いる人に仕事をどう与えるか」という視点でしか見られなくなっている"戦略なき実態"が垣間見えたからです。

 

3.改めて「職制」について考える

組織の見直し方向が見えてくれば、「職制」についてもメスを入れます。
 企業においては部長、次長、課長などの役職名が一般的です。また大企業の社員から主任研究員などと刷られた名刺をいただくことがありますが、これはあの一流企業の研究者というだけで箔がつくのが故のものです。
 しかし、中小企業だとそうはいきません。一部の企業では肩書きと処遇が混迷して、ポストのインフレ現象が発生しています。例えば、同じ課なのに違いが良く分からない課長が何人もいたりします。なかには部下のいない課長も少なからずおり、このことは時間外手当もからんでいわゆる「名ばかり管理職」の問題にも結びついてきます。

では、「課長」とは何なのかを考えてみましょう。例えば、某社員が4月1日に課長の辞令を拝命したとします。3月31日と比べていったい何が変わるのでしょうか。

①人事制度上の等級が上がった。
②組織規程や職務権限規程に基づいて、○○課という組織を任されることになった。
③立派な肘掛椅子に変わり、出張の際にグリーン車に乗れるようになった。
④管理職手当がつく代わりに残業代がつかなくなった。
⑤組合員から非組合員へと変わり、重要な社内会議に出席するようになった。
⑥本人がやる気になった(または、職責が重くのしかかり悩みの種となった)。
⑦周囲の見る目が変わった(信頼感が増した)。

改めて、日本の企業において課長とはいったい何を意味するものなのでしょうか、明瞭に説明することが難しいことに気づきます。
 いうまでもなく、「課」と一言でいっても、その大きさ(部下の人数・予算執行権限・事業所の中での大きさ)などまちまちです。さらに本人や周囲の見る目など心理的な要因も含めて複合的な要素を持ち、また状況の変化によって変わっていきます。
 しかし、このあいまいさが良くも悪くも日本の組織の実態だといえます。これを、アメリカ的な合理主義のもとで、一刀両断切り捨ててしまうのは簡単ですが、ちょっと待って考えてみましょう。いったい何が良くて何が問題でしょうか。

 

4.「職制」から組織を見直す

日本の多くの中小企業では、ポスト管理について十分に追及してきませんでした。組織は誰がみてもすっきり、明瞭であることに越したことはありません。人事制度改定など大きな転換期にあたっては見直すチャンスです。ただし、見直すとなると多くの企業で役員や部門長クラスなどから総論賛成、各論反対という意見が噴出してきます。経営トップ自らが音頭をとってリーダーシップを発揮することが欠かせません。
 職制改定にあたって、以下の基準(内規でもよい)を持つことは果たして可能でしょうか。

ライン部長 ... (原則)○(例:2)つ以上の課を統括すること。
ライン課長 ... ○(例:2)つ以上の係を統括し、生産(製造)部門は○(例:7)名、
その他では○(例:5)名以上の 部下を持つこと。
(ライン)係長 ... 原則として(例:3)名以上の部下を持つこと。
 (「係長」というポストには注意を要する)

次に組織図に、ライン長を○○課統括(責任者)などと改めて併記してみると分かりやすくなります。(また、技術研究職などその職務特性によってあてはまらない場合もありますので注意が必要です;スパン・オブ・コントロールの原則)

 

5.まとめ-新たな役割認識をベースにした組織づくりへ

現在、ライン課長としての役割が改めて注目されてきています。組織を整備して、経営トップから各部門長の指揮のもと、エネルギッシュなミドルマネジメントとして精鋭化を図ることが新たな成長のカギを握ることは間違いありません。しかしながら残念なことに最近の若い社員は、職責が重くなる一方で見返りの少ない昇進を望まない気風が年々強くなっています。
 これを私は、「課長になりたくない症候群」と呼び、社会的にみても大きな問題として危惧しています。労働条件を多面的に見直すとともに管理職の登竜門としての課長職の必要性と魅力を訴え、若年層から中長期視野での動機づけを図ることが課題となってきています。
 そのためにも、10年先を見据えた要員計画を作成し、これに沿って適正なポスト管理を行っていくことが求められてきています。このことは60歳を超えた高年齢者雇用時代を受けていっそう重視されてきます。
 さて、これまで述べてきたこととは矛盾するかもしれませんが、中小企業だからこそ年功的経験にも裏打ちされた個々人の自尊心を効果的に活かしていくことが必要です。このような人も活かした全員野球を行っていかなくては、厳しい競争に勝ち残ってはいけないというのも一方の真実だからです。私は、仕事の付加価値と成果に見合う賃金制度を目指すことについて否定するつもりは全くありませんが、働く個々人のプライドを尊重せずに人事は成功しえないという立場をとっています。
 日本の組織風土にどっぶりとつかった身からすると、組織を見直すのは思った以上に大変なことです。これからの人事でもっとも重要なことは、仕事基準の"ポスト;役割"に焦点をあてつつ、"ヒト"との調和も配慮していく、そのような"トータルバランス重視"での見方が避けれないと考えます。

 

 

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