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はじめまして。この度はこうした機会をいただき非常に嬉しく思います。私自身はキャリア教育を中心の課題としてこれまで過ごしてきた立場ではありませんが,今回から3回に渡り,本学が取り組んでいる授業「心理学の現場」についてお話しさせていただきたいと思います。
話を始めるにあたり,今回はまず心理学という学問について,あるいは学問の特殊性(?)について,からスタートしたいと思います。ちょっと遠回りのような感じになりますがよろしくお付き合いいただきますよう,お願いいたします。
「心理学」のイメージは?
一般の人にとって,"心理学"とはいったいどのような学問に見えているでしょうか。心理学と言えば,"カウンセリング"あるいは"カウンセラー",ひょっとしたら,魔法のように人の心を読む,なんてイメージを持っておられる方もいらっしゃるかもしれません。私も美容院などで,心理学の教員だと自己開示すると,「まぁ怖い。私の心,読まれちゃってます?」なんてコメントをされることも多いです。あるいは,犯罪のプロファイリング,なんていうイメージもあるかもしれません。
心理学に対するこうしたイメージは,たとえば高校生の皆さんが進路を選択する際の,親子の会話に,こんな形で現れることがあります。
子:「大学では心理学を勉強しようかな...」
親:「え,心理学を勉強して,カウンセラーになるの?」
子:「いや,別にカウンセラーになるってつもりじゃないけど...」
親:「じゃぁ心理学なんか勉強しても仕方ないじゃない。別の,もっと仕事につながる勉強をしたら?」
子:「......。」
こうした話(会話)を,オープンキャンパスなどで本学を訪れてくれた高校生さんから聞くにつけ,我々としては,心理学は誤解を受けてるなぁ,と思うわけです。
本当の心理学は...
心理学を勉強することは,もちろんカウンセラーというキャリアにつながる道であると言えます。それ自身は誤解ではありません。しかし,心理学を勉強することは,もっともっと多くのことを学ぶことであり,もっともっと多くのキャリアで活かせる学びなのです。
ここで,本当の心理学の射程について,もう少し詳しくお話ししたいと思います。
心理学は,人間の行動がどのように決定されるかを明らかにしようとしている学問です。だから,心理学は,"心理"の科学であると同時に"行動"の科学であるとも言われています。なぜなら心理学者は,人間の行動をコントロールしている"もの"を,すべて"心理"だと考えて研究を行ってきたからです。この辺りが,心理学に関するいろいろな誤解の根源なのだと思われます。つまり,一般の人が「心(理)」と言った時に指すものと,心理学が扱っている「心(理)」との間には,ズレがあります。言い方が妥当かどうか自信がありませんが,心理学者が「人間の行動を決定するすべて」を「心(理)」であると考えているのに対して,一般の人は,「カウンセラーが扱っているようなこと」(だけ)が「心(理)」だと考えているのではないでしょうか。だからこそ,「カウンセラーにならないなら心理学は役に立たない」と考えてしまったりするのではないかと思われます。
繰り返しになりますが,心理学(者)が扱う内容は,人間の行動を決定するすべてです。そして人間の行動は,本当にありとあらゆる要因によって決定されます。たとえば,外界の刺激をどのように"知覚"するのかによって,人間の行動は変わってきます。それは時によっては"認知"と呼ぶべきものかもしれません。また,同じ環境におかれても,その人がこれまでにどんな経験をして,何を"記憶"しているのかによっても,人間の行動は変わってきます。それは時によっては"学習"と呼ぶべきものかもしれません。さらに,同じ環境におかれても,その人の"性格"によって,その行動は変わってきます。そしてそれは,どのように"思考"するかの違いであるかもしれません。もちろん,その人が大人か子どもか,つまりどのような"発達"段階にあるのかによっても,人間の行動は変わってきます。あるいは環境そのものによっても,当然人間の行動は変わってきます。一人でいるのか"社会"の中にいるのか,"組織"に所属しているのか...。
だから,心理学と一括りにされている学問の中には,一般にもよく知られている"臨床心理学"以外にも,"知覚心理学"や"認知心理学","学習心理学""性格心理学""思考心理学""社会心理学""組織心理学"と,枚挙にいとまがないくらいの様々な"○○心理学"が存在しています。
心理学の領域の広さをイメージしていただくことができたでしょうか?おそらく心理学は,心理学を学んだことのない一般の人(特に高校生さん達)がイメージするものとは随分様子が違っているのではないかと思います。
そして,だからこそ,心理学が役に立つ領域も随分広いということがわかっていただけたでしょうか?
心理学は役に立つのか
では,心理学をどのように役立てればよいのか。社会で生活していく中で,どのように心理学を応用していけばよいのか。こうしたことを,我々心理学者はもっともっと,心理学を学んだことのない高校生さん達にも発信していかないといけないと思いますし,また,大学に入って,心理学を学び始めた人達にもわかってもらいたいと考えています。ここでのキーワードは「応用」です。役に立てる,ということは,まさしく心理学を社会の中で"応用"することだからです。
どのような学問にも,"基礎"と"応用"があります。基礎と応用,というと,基礎は簡単で応用は難しい,つまり,それらは難易度の違いであると解釈されるかもしれません。しかし,たぶんそれは間違いです。イメージ的に言えば,基礎とは"知識"であり,応用は,"知恵"によるその知識の活用です。
そして,知識を活用する知恵は"現場"にこそ存在しています。様々な"現場"では,予測不能な複雑な事象が生起します。それらに臨機応変に対応するためには,通り一遍の知識を持っているだけではダメで,それらを組合せ,うまく活用するための知恵が不可欠です。
「心理学の現場」
そこで,我々は,「心理学は役に立つのか」あるいは「心理学はどのように役立っているのか」を心理学を学び始めた大学生さん達にわかってもらうためには,現場からのレポートがもっとも適切であろうと考えました。つまり,できるだけ様々な,現場というフィールドで,心理学がどのように活用されているのか,役に立っているのかを,まさに現場の方々からレポートしてもらう授業を考えることにしました。これが,本学自慢の「心理学の現場」という授業なのです。
以上,「心理学の現場」の予告編,という感じになりました。「心理学の現場」の具体については,来月,再来月にご紹介させていただくことにしまして,今月のところはここまでに。
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