JAVADA情報マガジン10月号 キャリアに関する研究者からの提言【キャリアナウ】
◆2014年10月号◆
第1回 高年齢者雇用における真の問題 |
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1.はじめに私は人事労務や組織における人間行動などを研究していて、特に、従来のままでは職場から排除されがちであった人々、たとえば高年齢者や障害者の雇用・就業問題を対象に、様々な調査・分析を行ってきました。 10月から12月にわたって、このコラムでは、高年齢者の雇用問題に焦点を絞って述べていきますが、読者の皆さんが、もし3回のコラムに目を通されたならば、このテーマが高年齢期の雇用管理の問題ではなくて、全職業人生にわたるキャリア管理の問題であることに気付いてくださることと思います。ですから、当事者の方はもちろんですが、職業の入口に立たれたばかりの若年層の方々や、人材育成に目配りをしなければならない職場の長の方々、人事担当者の方々に、特に目を通していただきたいと願っています。 第1回目は、導入として、高年齢者雇用の一体何が問題となっているのか、世間でよく言われている「一般論」と、現実を見据えることで浮かび上がる「真の問題」について述べていきたいと思います。
2.一般的にいわれている高年齢者雇用問題の真相(1)労働力減少問題 ―企業にとって高年齢層は対象ではない高年齢者雇用問題に関しては、これまで多くの議論がなされてきました。そのひとつは、労働力人口減少への対処として、高年齢者雇用が社会的に必要であるという議論です。確かに、産業や業種によっては人材の獲得合戦がすでに始まっています。しかし企業が獲得しようとしているのは、多くの場合、高年齢層ではないことを認めねばならないでしょう。 「高年齢者・障害者の雇用と人事管理に関する調査」(2014)でわかったことは、若年齢従業員の不足を訴える企業は49.4%に達するものの、高年齢従業員の不足については僅かに6.3%、逆に29.3%が過剰と考えているということです。また高年齢者の中途採用に関しては、募集はしたものの採用を取りやめる企業も多く、68.8%の企業が、希望する職務能力を満たしていないことを理由に挙げています1。つまり現状では、高年齢従業員の過多や能力のミスマッチが問題視され、いずれにせよ、高年齢層の雇用環境が厳しいことに変わりはないのです。 (2)2007年・2012年問題 ―日本ではほぼ問題外団塊世代の大量退職で、職場から知識・技能が失われないよう技能継承が必要であるとする議論があり、これは2007年問題、2012年問題として一時期マスコミ等を通じて大きく取り上げられました2。 しかしながら、知識・技能を持った人々が辞めていき、企業活動に悪影響が及ぶという状況は、引退をひきとめようとしても断られ、結果として技能が抜け落ちてしまう場合を想定すべきでしょう。しかし冷静にみれば、日本の産業界ではそのような事態は起こらないと考えられます。なぜならば、企業は、必要人材に関しては制度がどうであれ、戦略人事としてこれまでにも組織内に留めてさせてきたからです。そのため、2007年・2012年問題は、結果的にはほぼ起きることはありませんでした3。 (3)雇用継続後の就業条件低下問題 ―不条理とは言い切れないまたたとえ60歳以降の雇用が実現されても、賃金の低下など就業条件が問題視されることがあり、そのことが同時に就業意欲の低下を招いている、という議論もあります。しかし定年で一旦退職の手続きをとり、新たな契約を結び直す再雇用の下では、働き方が変わり賃金が下がることは、普通のことと捉えることもできるのです。 前出2014年調査では、60歳定年以降の平均的な働き方として次のことが示されています(図1)。まず、多くの人がフルタイム勤務で、これまでと同じ職場か同じ会社で働くことを望み、4人中3人が現にそうなっています。また、これまでと同じ仕事か少しだけ異なる仕事に就き、全く異なる仕事に従事することは稀で、こうした働き方も本人の要望とほぼ一致しています。 一方、仕事に関する責任や役割はどうかというと、多くの場合、60歳を境に軽減あるいは退職が近づくにつれて軽減され、60歳前と同じ役割や責任を負わせられる場合は20%にも満たず、嘱託・契約社員への転換は7割近くに達しています。その結果として、収入が60歳前の7割前後になるということは、むしろ妥当という見方もできると思います。
3.真の問題は何か(1)企業は定年後の再雇用で精一杯であるという事実それでは何が高年齢者雇用における真の問題なのでしょうか。2013年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行され、企業は事実上、希望者全員を段階的に65歳まで雇用することを義務づけられるようになりました。そのため総人件費の増加など、企業は大きな負担を強いられることが懸念されています。 そもそも、1)定年制の廃止、2)定年の引き上げ、3)継続雇用制度の導入のいずれかによって、段階的に65歳までの雇用確保措置を講じることを企業に義務づけたのは、2004年改正高年齢者雇用安定法でした。その時から約10年を経た現在、直近のデータである2013年厚生労働省「高年齢者の雇用状況」調査によると、定年制を廃止している企業は、301人以上企業で0.4%、定年の引き上げは6.8%で、残りの92.8%が依然として定年を据え置いて継続雇用制度を採用していることが示されています4。つまり、大半の企業にとっては、未だ全員の雇用延長は困難なのであり、60歳定年を維持しながら、再雇用によって高年齢者雇用を進めることで精一杯なのです。このような実情を知ることが、まず重要であると思います。 (2)希望者全員雇用を謳う法の下でも、雇用される人とされない人が出てくるしかしながら一方で、周知のように、日本の高年齢者の就業意欲が極めて高いことは有名です。労働力率を見ても、日本は他国に比して高い数値を保っています。しかしデータを詳細に見ていくと、別の側面が浮かび上がります。 前々回の改正高年齢者雇用安定法が施行されて、雇用確保措置が企業にある程度浸透した2010年時点を見てみましょう。この時、OECD労働統計では、60~64歳日本男性の労働力率は76.0%となっています。アメリカ60.0%、イギリス57.9%、ドイツ53.7%、フランス20.2%と比べると随分高い数値といえるでしょう。しかし2010年総務省「労働力調査」を詳細に見てみると、60~64歳男性における常勤雇用労働者は、短時間勤務者を含めても僅かに45.9%でしかなく、55~59歳が69.9%であることと比較すると、60歳前後で24%も下がっていることがわかります(図2)。つまり、就業意欲を持つ全ての人が、就業を実現できているわけではないのです。 企業が60歳以上の一律雇用延長は困難としている現状において、たとえ法が希望者全員雇用を義務付けようとも、実際には雇用される人とされない人の選別が、明示的あるいは暗示的に行われていくと考えねばならないでしょう。このことこそが、高年齢者雇用における今日的な重要課題なのです。 こうした事情の下、働く個人として重要なことは、もし60歳を超えて働き続きたいと思った場合に、自分の希望通りに就業の機会が得られるかどうかにあるでしょう。そこで「第2回 高年齢者雇用―誰が残り、誰が去るのか」では、雇用継続された人とされなかった人の、職業キャリアの違いについて論じます。また、職場を管理する職場長や経営側としては、現実問題として全員雇用が果たせない状況を、いったいどのようにして収拾するのかが、関心事項となるでしょう。「第3回 高年齢者の雇用と引退をどのようにマネジメントするのか」では、この問題について述べたいと思います。先に2つの議論の要点を言いますと、「高年齢者雇用はこれまでのキャリアの延長線上にある」ということになります。
脚注
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