JAVADA情報マガジン8月号 キャリアに関する研究者からの提言【キャリアナウ】
◆2014年8月号◆
JABEE教育へのキャリア教育の導入を目指して(2)~導入・施行~ |
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鹿児島大学 工学部化学生命工学科 学科長・JABEEプログラム責任者 |
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1. はじめに本連載の最初の7月号では、日本技術者教育認定機構(JABEE)と私の所属する鹿児島大学工学部化学生命工学科におけるJABEE教育プログラムの導入の取り組みについて紹介すると共に、技術者育成への私の思いを書きました。今回は、私の目指す真の技術者教育に近づけるために、これまでに取り組んできたこと、特に本学科において実施しています就職支援セミナーにおけるキャリア教育の専門家との出会いについて書いてみたいと思います。JABEE、鹿児島大学と工学部、化学生命工学科、また私の研究室については、以下のホームページや引用文献をご覧下さい。
2. 技術者教育へのジレンマ経済状況の激変の兆しが見え始めた今から10年程前、鹿児島大学工学部の学部生・大学院生への技術者育成教育だけでは、社会と時代が求める理系学生像にギャップがあることを感じ始めました。特に2008年9月のリーマンショック以降の日本経済の大幅な景気後退のために、かつての就職氷河期と同様に学生の就職活動が厳しくなり、多くの会社を受験してもなかなか内定がもらえず、卒論・修論の研究に支障を来たすようになりました。それまでは教授推薦による内定獲得は確かなものでしたが、時代の流れと共に今では不確かになったと実感しています。鹿児島大学工学部の学部生・大学院生の技術的なセンスやテクニックが決して低迷したとは思いませんし、また指導する教員は日進月歩の科学技術を常に自分の研究分野において獲得しており、それをいち早く教育・研究に導入しています。JABEE教育プログラムを始めた8年程前は、「この新しい教育プログラムの中でどうやって学生を指導しようか?」と私も含め教員の間に戸惑いと模索がありました。しかし、3回の認定審査を経験し、それを乗り越えたことによって、JABEE教育の本質を理解するようになり、現在では教員各人がそれぞれの専門分野において独自の理念に基づいて学生を指導しています。したがって、本学部と本学科の教育の質が低下したとは決して思いません。我々の教育プログラムはJABEEによって改善され、本学科の卒業生は社会の要求する技術者としての水準を十分に満たしていると信じています。しかしながら、日々教育と研究の現場に身を置く私には、社会が求める学生像とのギャップの原因がはっきりと理解できない状態が続きました。唯一明らかなことは、学生がもっと柔軟に、またもっと幅広い視野で物事の本質を見抜き、培ってきた技術者スピリットによる自らの直感を信じて、正しく現象を見通し、行動できる力強さがあればという思いです。これらの力強さや人間性を身に付ける教育が必要であり、JABEE教育プログラムが定着してきた今こそ、次の段階としてこの課題に取り組もうと思っていました。しかし、次の課題も見えたものの、生粋の研究畑にいる私には専門分野の教育プログラム以外は知らないというのが正直なところでした。 ![]() 鹿児島大学工学部化学生命工学科肥後研究室における専門教育(検討会(左)と文献輪読(右))
3. キャリア支援の専門家との出会い今から2年前、私は関西を拠点に精力的に活動されているキャリア・コンサルティング技能士の資格を持つ二人のキャリア支援の専門家と出会いました。お二人は現在の株式会社ASキャリアの瀬谷俊宏氏と浅田実果氏であり、以前から鹿児島大学工学部の現在の化学生命工学科のある教授の招聘で、学生の就職活動を始める直前の就職支援セミナーで来られていました。その当時は、毎年定期的に鹿児島大学に来られていたにもかかわらず、直接面識を持つ機会がありませんでした。その後、私が化学生命工学科の就職担当となり、両氏のセミナーを聴講する機会を持ちました。私は就職支援セミナーといえば、内定を獲得するための作法と知識とテクニックをガイダンス型式で学ぶものばかりだと思っていました。通常このようなセミナーでは、講師1名がパワーポイントとレジュメで説明するものですが、瀬谷氏と浅田氏は2人で講演を行い、まるで舞台に立つ漫才師を見ているような掛け合い、間の取り方、阿吽の呼吸、関西のノリと話術で教室中を動き回ります。私たちの専門分野の講義やセミナーでは出会うことのない方々でとても新鮮でした。この就職支援セミナーを聴講してみて気付いたことは、就職試験の内定獲得の知識やテクニックを学ぶだけではなく、両氏は「就職」という学生の関心事の機会を活用して、社会が求める人物に近づくための考え方や行動様式を、講義やグループワークを通して伝えていました。両氏はこのセミナーで終始、「なぜ必要なのか?そのようにすることにどんな意味があるのか?」を学生に問いかけ、答えを待ちながら進めていました。その一部始終を見ていて、「日頃私が研究室で学生に伝えているスピリットと同様ではないか?」と親近感が湧いてきました。両氏は就職試験において内定を勝ち取るための作法やテクニックもさることながら、私が7月号に掲載した技術者教育として掲げる信条と符合するスピリットを持ってセミナーに携わっていました。 私は学部生や大学院生との研究活動において、「『多くの研究者が言っているから信じて疑わない。皆がしていることだから間違いはないだろう。』という考え方は本当に正しいのか?現象には必ず真の原因があるはずだ。多いに疑問を持ち、物事を疑ってみることが真理を追究する際に重要なことだ。そして研究を完成させるためには粘り強く努力を重ねる根性が大切だ。」と教育しています。多くの方々が経験されていると思いますが、貴重なお金と時間と人力をかけて実施する研究には、やってみなければ解らないところがあり、博打的な側面があると思います。最初から答えの解っているテーマを研究しても面白くない。先が解らないからこそ知的好奇心を掻き立てられて面白く、わくわくするのです。技術者の歴史を考えると、固定観念から生み出された技術革新はなかったように思います。進路選択や人生においても正解がないと思います。「最初から解っている人生が面白いものか?ほかの学生達の右へ習でいいのか?」人生を選択して力強く進む力は、私が知らなかっただけで、キャリア教育の見方から援用できるではないかと思えてなりません。このように、人生を生きるスピリッツと技術者としてのスピリッツという点で、キャリアの専門家の両氏と応用化学の研究者である私の伝える手段や方法は違っていても、学生に問いかけたいことや学んで欲しいことは本質的にまったく同じだと実感しました。 この就職支援セミナーは、本学科において就職活動を間近に控えた学生が自信を持って就職試験に臨めるようにとの思いで、また社会人となる準備教育としても重要であることから、毎年秋に土日の2日間で集中的に実施しています。本学科や工学部の教育プログラムでは、補完しきれない実社会が求める人物に近づくための一味も二味も違うキャリア教育に基づく就職支援セミナーとして現在も続けています。昨年秋のこの就職支援セミナーにおいて、「今実施しているこのセミナーは、ひょっとしてJABEE教育プログラムとの接点があるのではないか?」と思うようになりました。早速そのことを両氏に相談しましたところ、思いの外意気投合し、メールと電話で幾度となく協議を重ねました。両氏が提案された「JABEE教育とキャリア教育の接点」の企画書を基にして私の学科へ働きかけ、賛同を得ることができました。そして、本年4月にこのテーマで3日間に渡ってJABEE教育へのキャリア教育の導入を目指した講演会と学部生と大学院生対象のセミナーとしてスタートすることができました。 本連載の最後の9月号では、先日開催しましたこの講演会とセミナーの様子と、「大学の専門教育において、学生の人間性教育を行うにはどうしたら良いのか?」の思いを踏まえて、JABEE教育とキャリア教育の統合に向けての今後の展望について書いてみたいと思います。 ![]()
鹿児島大学工学部化学生命工学科主催の「JABEE教育とキャリア教育の接点」の講演会とセミナー
引用文献と資料
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