JAVADA情報マガジン3月号 キャリアに関する研究者からの提言【キャリアナウ】

2014年3月号

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わが国の人材育成の特徴と求められる変革

実践女子大学  谷内 篤博 氏 《プロフィール

1.わが国の企業内教育の歴史的変遷

わが国の企業内教育の歴史的変遷を概観すると、大きく5段階に分けることができる。まず第1段階は、戦後間もない復興期で、TWI(Training Within Industry)やMTP(Management Training Program)に象徴されるように、アメリカの教育技法を導入・模倣し、現場のマネジメントや部下指導ができる監督者や管理職の育成に重点が置かれた。

第2段階は高度経済成長期で、日経連の能力主義人事の提唱に呼応すべく、人事制度との連動を図りながら、監督者訓練を核として新人教育、中堅社員教育、管理者教育など、教育の体系化が試みられた。教育手法としては、マネジリアル・グリッドや目標管理制度(MBO)など、行動科学をベースにした手法が企業内教育に積極的に導入された。

第3段階はオイルショック以降の減量経営下で、企業内教育も一時的に停滞したが、新たな生産性向上や合理化の必要性からQCサークルやZD(Zero Defect)運動に見られるように、TQCや小集団活動を中心とした企業内教育が全盛を極めた。また、管理者適性、管理能力を判定するHA(Human Assessment)や中高年層を活性化させるエイジ教育などが導入・展開され、教育の重点が中高年層の活性化教育に置かれた。

第4段階は円高不況、国際化の時代で、企業内教育は当初、経営の国際化・グローバル化に対応するため、国際化研修や海外要員育成に向けた語学研修が中心であったが、徐々に異文化理解を含めた計画的な海外要員育成に発展し、海外ビジネススクールへの派遣も積極的に展開されるようになった。

第5段階はバブル崩壊後の平成不況期から現在までの時代で、リストラクチャリング(事業構造の再構築)やリエンジニアリング等を通じて経営体質の改善・強化を図っていくことに教育の重点が置かれた。と同時に、グローバル競争に打ち勝つことを目指し、次世代リーダーやグローバルリーダーの育成に取り組み始めたのもこの時期である。従来の全体的底上げを目指した階層別教育から脱却し、ターゲットを絞った教育に基軸を置き始めたという意味では、まさに企業内教育のパラダイム転換期と位置づけることができよう。

 

2.企業内教育の特徴

このような歴史的変遷をたどってきた企業内教育には、次のような特徴がある。

(1)OJT、Off-JT、SDの3つの体系から成る企業内教育

わが国の企業内教育はOJTを中心に、それを補完するOff-JT(階層別教育、専門別教育)SD(Self Development:自己啓発支援)が連動する形で実施・展開されてきた。しかし、企業内教育の核ともいうべきOJTは、最近の成果主義の浸透にともない、管理職のプレイングマネジャー化を促進させ、現場におけるOJTを形骸化させている。また、Off-JTの代名詞にもなっている階層別教育も、全体的な底上げ教育としての色彩が強く、求められている次世代リーダーやグローバルリーダーなどの育成が極めて困難な状況となっている。

(2)教育の場が企業内に限定

これまでの企業内教育は、終身雇用を前提に、企業固有技能(firm specific skill)の習得を目指して展開されてきた。こうして習得した技能は、その特殊性のゆえに非汎用的技能としての色彩が強く、終身雇用を促進させる機能を有していた。しかし、終身雇用が崩壊し、若年層の雇用の流動化が本格化しつつある環境下では、市場性の高い専門能力や汎用性の高い技能が求められている。前回の拙稿で述べたように、若年層の仕事志向やプロフェッショナル志向に応えていくには、教育の場を企業内に狭く拘泥することなく、汎用性の高い専門性の習得を目指す方向に転換していかなければならない。

(3)経営戦略との連動性に欠ける

企業内教育は、OJT、Off-JTを中心に短期的視点から、業務遂行に必要な知識や技能の習得に重点が置かれ、時には人事部門の独りよがりな発想に基づき、展開されることすらある。また、教育の実施に際しても、企業内の教育スタッフが主体的役割を果たさず、外部の専門教育機関に大きく依存している。その結果、企業内教育は、長期的な視点にたった経営戦略との連動性に欠けた"場当たり的"な人材育成に陥っている。企業内教育の実効性を高めるためには、企業内教育を経営戦略や求められる人材像などと効果的に連動させ、長期的な視点から計画的に実施されなければならない。

(4)知識詰め込み型教育が中心

Off-JTは、座学や講義形式によるアウトサイド・イン型の知識詰め込み教育が中心となっている。こうした知識詰め込み教育は、受動的学習プロセスを通して展開されるため、実効性の乏しい教育に陥りやすく、学んだことを実際の現場や仕事に適用することが難しい。今後は学んだことを実際のマネジメントや仕事に適用したり、自らの行動転化に結び付けられるような、理論と実践を融合した実効性の高い教育が求められる。

(5)行動環境の視点が欠落している

企業内教育は、個人の能力開発に焦点があてられており、個人の行動環境に対する配慮がなされていない。レビン(K.Lewin)が提唱するように、人間の行動原理はB=f(P , E)と表すことができ、われわれの行動(Behavior:B)は、個人(Person:P)と個人の行動環境(Environment:E)との関数(function:f)、すなわち相乗効果によって引き起こされる。企業内教育を通して個人の望ましい行動を引き出すには、その行動環境ともいうべき組織文化や組織風土の変革も同時に行っていかなければならない。

 

3.企業内教育に求められる変革

最後に、こうした企業内教育の特徴と問題点を踏まえ、その変革の方向性について言及していく。企業内教育に求められる変革の方向性としては大きく4つの方向が考えられる。まず1つ目は、育成すべき人材像から見た変革の方向性である。前述したように、これまでの企業内教育はOJTや階層別教育を中心に、業務に直結した教育や全体的底上げをはかる教育が展開されており、これからの企業経営を担っていく次世代リーダーやグローバルリーダー、さらには競争優位の源泉を生み出すプロフェッショナルが育たないのが現状である。今後はCU(Corporate University::企業内大学)を設置し、大学、ビジネススクールなどと連携し、こうした次世代の経営を担える人材を育成していくことが必要不可欠となる。そのためには、経営者マインドや経営知識・スキルを習得させ、新たな事業プランの提案につなげていくアクションラーニングを導入するとともに、経験学習の場として、実際に海外子会社の経営執行を担当させたり、新規事業開発のプロジェクトリーダーを担当させるなど、良質な経験(一皮むけた経験)をさせることが重要となる。と同時に、育成すべき能力の範囲も、内外の労働市場で通用するエンプロイアビリティの習得を視野に入れ、大学院などの高度専門教育機関への派遣や外部の先進的企業へのトレイニー派遣なども必要となる。

企業内教育変革の2つ目の方向性は、ミドルの再生とOJTの再構築である。成果主義や組織のフラット化などで形骸化したOJTを再創造し、現場力を高めていくには、ミドルの再生が企業内教育の喫緊の課題である。職場にチームとしての一体感・連帯感を醸成し、集団としての凝集性を高め、競争力の源泉を生み出していく"戦略ミドル"の育成・輩出が求められる。このような戦略ミドルの育成には、イノベーションを生み出す創造的リーダーシップや組織に変革をもたらす変革型リーダーシップの習得を目指した新たなリーダーシップ・トレーニングなどが必要となってくる。

企業内教育変革の3つ目の方向性は、教育手法、方法論から見た変革である。これまでの企業内教育は、座学の講義形式で知識を詰め込んでいくアウトサイド・イン型教育が中心であるため、受講者の能動的学習につながらず、学習した内容の適用・応用性も低いという欠点を有していた。習得した知識やスキルの適用性を高めるためには、教育プロセスに能動的に参画し、自らの思考や意思決定を通じて知恵を生み出すインサイド・アウト型教育へと転換していく必要がある。そうした教育メソッドとしては、経営を疑似体験できる戦略シミュレーション研修や経営課題と直結したケーススタディなどがある。

企業内教育変革の最後の方向性は、個人と組織の両面にわたる開発の展開である。企業内教育を通じて個人の能力が向上しても、その行動環境である組織風土が旧態依然としていれば、個人のモチベーションも期待する行動も引き出すことができない。企業内教育の効果を高めていくには、個人の開発と同時に、行動環境である組織風土の開発も併行して行っていくことが望ましい。ここに、最近、組織開発(Organization Development:OD)が再び脚光を浴びる理由があるものと思われる。

 

 

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