JAVADA情報マガジン2月号 キャリアに関する研究者からの提言【キャリアナウ】

2014年2月号

←前号 | 次号→

プロフェッショナル志向の高まりとキャリア形成

実践女子大学  谷内 篤博 氏 《プロフィール

1.若年層におけるプロフェッショナル志向の高まり

前稿において指摘したように、若年層の会社・組織観は、「いくつかの組織に所属し、それぞれから必要なものを手に入れていく」という「所属意識」に裏打ちされており、その中心的価値は会社への忠誠よりも仕事への忠誠、会社への貢献よりも自分の専門性の深化や市場価値(market value)の向上にある。自己利益を重視する功利型の所属意識に裏打ちされた若年層は、仕事を媒介として個人と組織の緩い関係(ルースカップリング)を希求しており、個人の仕事に対するコミットメントを極めて重視している。

こうした仕事に対するコミットメントを重視する若年層は、一方で自分の専門性やユビキタス・ネットワークなどを活用し、自ら主体的に仕事やキャリアをデザインする自律的な働き方を強く志向するするとともに、他方で所属する組織に対するロイヤリティが低く、外部の専門的な機関や専門家集団における自己の評価や評判に強い関心をもつ。言い換えるならば、彼らの準拠集団は勤務する組織ではなく、むしろ学会、専門家集団などの外部の組織や団体にあり、そこでの自己の評価が高まることを強く望んでいる。

従って、当然そのキャリア志向もスペシャリストやプロフェッショナル志向が強くなり、自分の専門性や技術レベルを高めることが可能ならば、転職をもいとわない。最近の若年層の転職志向の高まりや一社主義の低下傾向は、こうした若年層の会社・組織観やキャリア志向が影響しているものと思われる。

このような若年層の仕事志向やキャリア志向が、これまでのような組織との一体化を強く志向した「場」(すなわち、自分の属する会社)を重視する企業意識にかわって、「資格」(すなわち、自己の専門性)を重視する職業意識を萌芽させ、日本において新たな職業観ともいうべきプロフェッショナル意識を醸成させていく。さらに、職業意識は企業意識とは異なり、企業の枠を越えうる可能性が高いため、わが国おいても本格的な職業倫理や横断的な職業別労働市場(occupational labor market)が形成されていく可能性が高まるものと思われる。

 

2.プロフェッショナルの人材ポートフォリオにおける位置づけ

次に、プロフェッショナル志向の高い人びとをその特徴を明らかにするために、人材ポートフォリオ上に表してみたい。本稿における人材ポートフォリオは、縦軸が会社・組織観を意味しており、横軸は準拠集団、つまりコミットメントの対象を意味している。プロフェッショナルをこうした視点からなる人材ポートフォリオ上に表してみると下図のようになる。

本稿におけるプロフェッショナルは、人材ポートフォリオ上のスペシャリストとプロフェッショナルから構成される。スペシャリストは専門職で、いわば社内プロフェッショナルともいうべき存在、プロフェッショナルはインディペデント・コントラクターとして仕事を請け負う職業人で、両者には一部、帰属意識、所属意識など会社・組織観において違いが見られるものの、コミットメントの中心が仕事や専門性に置かれている点で共通している。さらに、プロフェッショナルのキャリアを主に組織内で形成していくことを基本とする立場から、両者を含めてプロフェッショナルとして議論を展開していきたい。

人材ポートフォリオにおけるプロフェッショナル
図 人材ポートフォリオにおけるプロフェッショナル

 

3.プロフェッショナル育成に向けたキャリア形成

自己の専門性や市場価値を高めることに強い関心のある若年層は、仕事志向やプロフェッショナル志向が強く、キャリア形成においてもこれまでのようなOJTを中心とする教育やゼネラリスト(管理職)育成に向けた単一のキャリア・パス、全体的な底上げをはかる階層別教育では、その育成が困難と思われる。プロフェッショナルを育成していくためには、以下のような視点に立ったキャリア形成が強く望まれる。

(1)体系的な専門教育と経験学習の融合

プロフェッショナルを育成していくためには、従来の画一的な階層別教育にのみ依拠することなく、コーポレート・ユニバーシティ(以下ではCUと表記)を設置し、内外の労働市場に通用するような高度な専門的知識や技能の習得が可能となるような体系的な専門教育が必要となる。すでに、先進的な家電メーカーや自動車メーカーは、CUを通じたプロフェッショナルや次世代リーダーの育成に着手している。

また、プロフェッショナル育成には、CUを通じた専門教育に加えて、習得した高度な専門的知識を現実のマネジメントに実際に適用させていく経験学習の場が必要不可欠となる。経験学習の場としては、プロジェクトや新規事業の立ち上げ、海外子会社へのボードメンバーとしての派遣、社外トレーニーとしての派遣などがあげられる。プロフェッショナルの育成には、キャリアの節目において、このような異質でかつ良質な経験をさせることにより、CUで習得した理論と実践の融合が可能となる。

(2)FA制度の導入とキャリア・オプションの多様化

プロフェッショナルのキャリア形成を考えた場合、従来の組織運営に基づく上意下達的な硬直的なジョブシステムでは、プロフェッショナルの仕事志向や自律的なキャリア志向にうまく応えていくことができない。プロフェッショナルの育成をはかっていくためには、自らの意思で仕事や異動先を選択できるようなFA(フリーエージェント)制度やジョブ・チャレンジ制度などの導入が必要となってくる。

それと合わせて、キャリア選択においても、自らのキャリア・ビジョンに基づき、自主的にキャリア選択が可能となるような仕組みや制度が必要となる。プロフェッショナル志向の若年層は、仕事を媒介として組織との緩い関係(ルースカップリング)を希求しており、キャリア選択においても自らのキャリア・ビジョンに基づく主体的な選択を望んでいる。そのためには、従来の管理職育成に向けた単一のキャリア・パスや人事制度から、個人の自主的なキャリア選択が可能となる複線型人事制度やコース別人事制度への転換をはかり、キャリア・オプションの多様化をはかっていかなければならない。

(3) firm specific skillからemployabilityへの転換

従来の人材育成は終身雇用を前提に、企業固有技能(firm specific skill)の習得を中心に展開されているため、習得した技能は外部労働市場や他社で通用しない非汎用的な知識・技能に陥りやすく、プロフェッショナルにとって魅力の乏しいものとなってしまう。若年層の仕事志向に応え、プロフェッショナル人材の育成をはかるためには、企業固有技能の習得に狭く拘泥することなく、内外の労働市場で通用しうる高度な専門性ともいうべきエンプロイアビリティ(employability)の習得も視野に入れていく必要がある。

こうしたエンプロイアビリティは、従来のOJTや階層別・職能別教育で習得することは難しく、前述したCUの設置・活用が必要となる。さらに、エンプロイアビリティの開発には、近い将来本格化すると思われるプロフェッショナルを中心とする職業別労働市場の形成を視野に入れるならば、業界連動型(いわゆるコンソーシアム型)CUを通じたプロフェッショナルの育成も必要なってこよう。ファッション業界のCUともいうべきIFI(Institute for the Fashion Industries)はその草分け的存在である。

(4)ロールモデル、メンターの活用

プロフェッショナルを育成していくためには、これまで述べてきたようなキャリア形成の仕組みや方法論だけでは決して十分とはいえず、具体的なゴールイメージともいうべきモデルが必要となる。組織のなかに、自分の将来像ともいうべき人材、いわゆるロールモデルが存在していれば、プロフェッショナル志向の若年層にとってもキャリア・ビジョンが立てやすく、キャリア・コースの選択における意思決定も行いやすくなる。

また、こうした人材をキャリアアドバイザーとして活用すれば、メンタリング効果をもたせることもできる。プロフェッショナルの育成は、キャリア形成の仕組みとロールモデルの活用が効果的に連動してこそ始めて可能になると思われる。

 

前号   次号

ページの先頭へ