1.帰属意識から所属意識へ
若年層の会社観・組織観が大きく変わりつつある。中高年層と比較しながらその変化の様子を見ていきたい。50歳以上の中高年層の会社観・組織観は、「1つの組織に帰属し、そこから人生に必要なものをすべてまかなっていく」という「帰属意識」に裏打ちされている。その中心的価値は、会社への忠誠心や職場への貢献、さらには上司への貢献といったものを重視する「自己犠牲」にあり、滅私奉公を美徳としている点に大きな特徴がある。
滅私奉公型の帰属意識に裏打ちされた中高年層は、いわば「単属型」人間ともいうべき存在で、個人のコミットメントの対象が会社に置かれており、会社と個人の関係がタイトなものとなっており、会社の目標・利害と自己の目標・利害が一致することとなる。
帰属意識に裏打ちされた中高年層は、一方で自分の専門性を重視するよりも、所属組織との一体化を強く希求しており、組織内部における昇進に強い関心をもち、管理職やゼネラリスト志向が強く、他方で会社の社会的責任(CSR)や存在意義を客観的に捉えることができず、会社の利益のためなら不正行為にも加担してしまう盲目的な企業戦士へと駆り立てられる。昨今の企業をめぐる不正事件や不正行為はこのような職業倫理に欠けた企業戦士によって生み出されたものと思われる。
それに対して、30歳以下の若年層の会社観・組織観は、「いくつかの組織に所属し、それぞれのところから必要なものを手に入れていく」という「所属意識」に裏打ちされており、会社への忠誠心よりも仕事へのコミットメント、会社への貢献よりも自己の損得を重視する「自己利益」にある。関本・花田(1985、1986)の帰属意識の研究においても、自己の権利・考えを押し出す「自己実現型」、功利のみを追求する「功利型」の帰属意識が若年層の主流になっていることが指摘されている。本稿では、関本・花田の自己実現型・功利型の帰属意識を「所属意識」と置き換えて議論を展開していく。
このような自己利益を重視する所属意識に裏打ちされた若年層は、いわば「複属型」人間ともいうべき存在で、仕事を媒介として個人と組織の緩い関係(ルースカップリング)を希求しており、個人の仕事に対する最大のコミットメントが必要不可欠となる。つまり、若年層は自分の仕事と一体化し、仕事を通して自己実現をはかることに主眼が置かれており、その結果として間接的に会社に貢献できれば良いと考えている。
このように、所属意識に裏打ちされた仕事志向の強い若年層は、所属する組織に対する貢献よりも、自己の専門性や市場価値(market value)を高めることに強い関心があり、自分の準拠集団が会社ではなく、学会や職業団体など組織の外部に存在していることが多い。最近の若年層におけるスペシャリスト、プロフェッショナル志向の高まりや転職志向の高まりは、こうした若年層の会社観・組織観が影響しているものと思われる。若年層のこのような会社観・組織観は、会社の社会的責任(CSR)や存在意義を客観的な視点から捉えることを可能にするとともに、自分の仕事や専門性に対する責任と誇りをもつ「職業意識」や「職業倫理」を醸成させることにつながるものと思われる。わが国における「職業意識」や「職業倫理」の萌芽は、近い将来、本格的なプロフェッショナル社会の到来につながる可能性をもたらす。
2.就社から就職へ
若年層の会社観・組織観の変化にともない、その職業観も大きく変化しつつある。会社観・組織観の変化と同様に、若年層の職業観の変化を中高年層と比較して見ていくこととする。
中高年層の職業観は、経済的豊かさ、物的豊かさ(to have)の追求がその根底にあり、職業選択においても横並び意識に基づき、一流企業や安定した企業に就職し、そこでの地位やポストを得ることにより経済的に豊かになることが主な目標となっており、入った会社でどのような仕事に従事するかは会社選びの重要な基準とはなっていなかった。従って、自ずと企業の採用も出身大学や人間性などの個人属性を重視する全人格的な採用が中心であった。こうした中高年層の職業観は、経済的な豊かさが可能となる会社に入ることこそが目的となる、まさに「就社」であったと特徴づけることができよう。
それに対し、若年層の職業観は、精神的豊かさ(to be)の追求がその根底にあり、垂直的価値観に基づき、どんな仕事を担当できるのか、自分の個性や能力が活かせるかどうか、などを重視する点に大きな特徴がある。つまり、若年層においては、「どこの会社に入るか」ではなく、入った会社で「どんな仕事ができるのか」、「その仕事は自分の習得した専門性を活かすことができるのか」などが重視される。最近、ソニー、オリンパス、資生堂などの先進的大企業を中心に、仕事を限定した採用システムである職種別採用やオーダー・エントリー・システム(OES)が導入されつつあるのは、このような若年層の職業観の変化に応えていくためであると考えられる。若年層の職業観の変化は、電通総研が大学生を対象に実施した「大学生の就職に関する意識調査」(1991)においても、会社選択の基準で「仕事のやりがいがある」がトップになっている。こうした点から若年層の職業観は、どこの会社に入るかよりも、入った会社でどんな仕事ができるかを重視するという意味で、まさにtask orientedな「就職」であると特徴づけることができよう。これまで見てきた若年層と中高年層の職業観の違いをまとめると次のようになる。

図 職業観の比較
このように、若年層の会社観や職業観が大きく変化しており、今後は従業員を同質的な存在とみなす画一的な人材マネジメントのあり方や管理職・ゼネラリスト育成に向けた単一のキャリア形成のあり方においても大きな変革が求められる。次回は若年層のプロフェッショナル志向の高まりに焦点をあて、その人材マネジメント、キャリア形成のあり方について見ていくこととする。
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