JAVADA情報マガジン10月号 キャリアに関する研究者からの提言【キャリアナウ】
◆2012年10月号◆
第1回:グローバル化と日本型インターンシップ制度-その課題と方向性- |
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青山学院大学 経営学部 教授薄上 二郎 氏 《プロフィール》 |
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◆5つの課題第1の課題は、どうすればインターンシップをうまく機能させられるかである。受け入れ側(企業、公的機関)、派遣側(大学)、関連団体(インターンシップをサポートするNPO、政府機関)、インターンシップを希望する学生のニーズをいかにうまく組み合わせることができるかが大きな課題である。 日本の大学は、一部を除いて、米国などに比べるとインターンシップのノウハウの蓄積が浅く、組織的な対応が必ずしもうまくできていない。企業側としても、受け入れのメリットよりも金銭的・非金銭的負担の増加というデメリットを感じるところが大きいだろう。また、大学が直接関与するものばかりとは限らず、学生が個人的に参加するインターンシップについては、実態を把握できないケースも多くある。これが海外でのインターンシップともなると、居住環境や地域の安全性の認識すらできないという事例も少なくない。4者の連携をどのように構築し、うまく機能させるかが最大の課題である。
第2の課題は、日本におけるインターンシップと採用選考の関係のあり方である。(社)日本経済団体連合会「採用選考に関する企業の倫理憲章(2011年3月15日改定)」よれば、「産学連携による人材育成の観点から、学生の就業体験の機会を提供するために実施するものである。したがって、その実施にあたっては、採用選考活動(広報活動・選考活動)とは一切関係ないことを明確にして行うこととする」とある。 しかしながら身近な例で見る限り、就職活動を意識して、インターンシップ先を選択する学生は多い。結果的にインターンシップを体験した企業に就職するパターンも少なからず見られる。日本経済団体連合会のルールが形骸化していないか、現状と照らし合わせてこのルールがどのような意義を持つかを見極める必要がある。 第3の課題は、日本型と海外におけるインターンシップ制度のギャップである。私が知る限り、米国や韓国において、インターンシップ制度は明らかに採用選考活動と結びついている。学生は就職を意識してインターンシップに臨み、企業側は優秀な学生を見極める機会を得る。インターンシップ期間中に、お互いの情報を知ることにより、採用後のミスマッチを減らすこともできる。 これに対し、日本型インターンシップ制度は、原則として採用選考活動とは切り離して考えられる。日本経済団体連合会のルールに従って、「わが社はインターンシップを募集しますが、採用選考とは一切関係ありません」という基準を設定すれば、グローバルレベルでは通用しにくいだろう。そうかと言って、海外拠点ではインターンシップを採用選考活動として位置づけるが、日本国内では採用選考とは無関係であるという二重の基準を設定することも考えものである。 第4の課題は、インターンシップ期間中の給与の有無である。日本におけるインターンシップは、多くの場合無給を前提としており、ともすれば無償のアルバイトということになりかねない。無給を前提とするインターンシップは、有給のインターンシップに比べて、受け入れ側の金銭的負担が少ない分、多くの企業が参入しやすく、アルバイト代わりに利用しようとする可能性も考えられる。 インターンシップは、研修か労働かの境が極めて曖昧であるという性格を持っており、トラブルになりやすいリスクがある。日本にある外資系企業では、有給で実施しているところもある。無給と有給のいずれを前提とするかについては、それぞれにメリット・デメリットがあり、今後の大きな課題である。 第5の課題は、グローバル化が進む中で、大学と受け入れ側の両方において、インターンシップに関わるリスクにどう対応するかである。インターンシップは、留学制度などに比べ、活動の領域が広くリスクも高い。例えば、2012年8月に海外インターンシップ目的で渡航した日本人学生がルーマニアで殺害されるという事件が発生した。これは極端な例かもしれないが、不測の事態が起きた場合に、大学、受け入れ側、関連団体、本人のいずれが責任を負うかについて、曖昧な点が多い。 海外から受け入れる場合もさまざまなリスクが伴う。インターンシップ期間中の病気や怪我に対する保険だけでなく、リスク予防対策、事後対策など金銭的、非金銭的なリスク対策を検討しなければならない。グローバル化と人材の移動が進み、国内だけの枠組みよりもリスクにどう対応するかという課題は大きくなった。
◆受け入れ側としての方向性多くの課題はあるものの、企業にとって、インターンシシップの受け入れにどのような価値を見出していくかが重要である。 第1の方向性としては、国内・海外に共通して学生のもつ豊かな発想や、着眼点を引きだすプログラムの提供である。環境の変化が激しい中で、従来のやり方では必ずしも通用しない仕事の領域が増えている。中小企業のホームページや商品紹介をみると、まだまだ改善の余地がある。グローバルサイト(多言語の表記)についてもかなり遅れている。 SNS(ソーシアルネットワーク)の活用によるマーケティングや広報活動(ホームページ、商品の紹介)、社会的責任に関わる活動(社会貢献、地域とのネットワークづくり)、若者向け新商品開発(ニーズ調査、顧客満足度調査)などの分野については、学生の能力を引き出しやすいのではないかと思われる。 現在の若者に共通する強みは、まずSNSを使うことに全く抵抗がなく、SNSに関係するスキル、視聴覚的・感覚的に訴える力が優れている点である。インターネットで調査できる学生もいる。また、仕事が面白いと思えばモチベーションが高くなり、面白くなければやらないという点もはっきりしている。受け入れ側としては、ホームページ作りや商品のチラシづくり、社内広報、消費者のニーズ調査、満足度調査などの仕事を任せてみるようなインターンシップの提供が有効ではないだろうか。 第2の方向性は20代のリーダー育成に役立てることである。受け入れに関する企画、オリエンテーションの実施、OJTなどを入社2~3年目の社員に任せることによって、インターンシップにリーダーの育成機能という価値を見出せるのではないだろうか。年齢的に近い関係で活動するということは、受け入れ側と参加する側の両者のモチベーションの原動力となり得る。リーダーシップ能力の育成は、今後ますます重要になってくる。この能力は、実際にリーダー的な役割が与えられないと育成できないものである。 第3に、海外からのインターンシップの受け入れに価値を見出すという方向性があげられる。欧米の場合、MBAのプログラムに組み入れられている場合が多く、優秀な学生が日本でのインターンシップ参加を希望している。海外からのインターンシップの受け入れは、宿舎の手配から、文化・慣習や宗教の違いなどさまざまな点で苦労が多い。しかし、受け入れることによって、企業側のグローバルコミュニケーション能力の向上、職場構成メンバー全体の視野の拡大、どうすれば相手に分かってもらえるかという視点など、受け入れ側の活性化につながるだろう。 グローバル化は、今や特定の企業や個人に関する課題ではない。グローバル化対策イコール企業の競争力向上といっても過言ではない。インターンシップを有効活用し、受け入れ側、大学、関連団体、学生のそれぞれがメリットを感じるという方向に進むことを望む。
【参考文献】 (社)日本経済団体連合会「採用選考に関する企業の倫理憲章(2011年3月15日改定)
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日本における大学生対象のインターンシップ制度は、短期のものから長期のものまで、かなり普及してきた。海外へ行って参加するインターンシップもめずらしい話ではなくなった。今回は、「グローバル化における日本型インターンシップ(または日本的インターンシップ)」が直面する全般的な課題を整理した上で、企業側の視点から今後の取り組みの方向性を論じてみたい。