JAVADA情報マガジン フロントライン‐キャリア開発の最前線-
◆2012年3月号◆
改めて考える~内的キャリアとキャリア開発
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有限会社キャリアスケープ・コンサルティング 代表 小野田 博之 氏 《プロフィール》 |
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内的キャリアを重視したキャリア開発のあり方について述べるこのシリーズも今回で最後になりました。 これまでに、内的キャリアに注目することの意味を、「適材適所」をキーワードにして個人と組織(会社)の双方の観点から説明しました。内的キャリアに注目することは、個人にとっては生きがいや働きがいといった自分のモチベーションの源泉を知ることであり、自分らしさを実現、実感するための手がかりを得ることでもあります。それらが明らかになることで、自分にとって意味のあるキャリア=仕事人生とするために、行き当たりばったりではなく意図的に取り組めるようになります。 一方、組織にとっては、所属するメンバーが自覚的にモチベーションを維持でき、働く上での納得感が増すことから、生産性の向上や創造性の発揮を期待できます。また健全な価値観を持って仕事に取り組むようになるという点でも意味を持つのでした。 そして前回は、そうした状態を実現するための人事システムのあり方について概念的ではありますが検討を試みました。 最後となる今回は、その内的キャリア自覚をどのように深めていくのか、またそれを人事システム上どのように支援していくのかについて説明したいと思います。
○内的キャリアのてがかり内的キャリアについて理解する上で有力な「キャリアアンカー(career anchor)」という概念を提唱したE.H.シャイン博士は、2007年に来日した折、その記念講演で「(キャリアアンカーとは)コンピテンシー、モチベーション、バリューからなる自分自身の『像』(ピクチャー)」であり、「『これが私です。これが私の得意なことです。これが私のやりたいことで、大切にしていることです』というように渾然一体となって溶け込んでいるもの(These kind of blend into a concept of "This is me. I'm good at this. This is what I want and this is what I value.")」と語りました(「時代を拓く キャリア開発とキャリア・カウンセリング~内的キャリアの意味」より、NPO日本キャリア・カウンセリング研究会発行)。 内的キャリア自覚を深めるとは少なくともこの3つの点(コンピテンス=competencies、モーティブ=motives、バリュー=values)での自分自身について点検することになるでしょう。 このとき、まず目を引くのはこれら3つの要素はいずれも持って生まれたものでなく、また幼少期に定まってしまうものでもないということでしょう。 確かに、小さな頃からある特定の領域に関心を持ったり得意なことがあったりします。幼稚園で子どもたちを見ていると生き物が好きな子もいれば全く関心を持たない子もいます。小学校の低学年なのに歴代天皇や世界の国名とその首都名を暗唱できたり、あるいは音楽などの面ではコンクールで入賞したりするなど驚くような才能を示す子もいます。その子の持って生まれたものもあるでしょうし、親の興味関心など家庭環境が影響することもあるでしょう。 かといってその違いがそのまま大人になっても保持されていたり、運命づけられたりしているわけではありません。「栴檀(せんだん)は双葉より芳し(1)」ということもあるでしょうが、「十で神童十五で才子二十過ぎればただの人」ということも少なくありませんし、逆に大器晩成もということもあるのです。所与なのではなく、徐々に確立していくものなのです。いかようにも変わりうるし、だからこそ分かりづらいともいえます。 たとえば「コンピテンス」。平たくいえば自分の得意なこと、得意とまではいえなくても「そこそこやれそうだな」「何とかなりそうだな」と思っていることともいえるでしょう。それは、文章や絵を描くことかもしれませんし、体を動かすことに関するものかもしれません。 ただいずれにしても当初から抜きん出て優れていたというケースばかりではないでしょう。しかし、やってみて手応えを感じたり、それについて「上手なもんだね」といったフィードバックがあったりすると、自分なりにさらに磨きをかけるようになり、それがまた上達につながるということもあります。そうしてそれが得意なこととなっていきます。 このことはモーティブやバリューについても同様で、生まれつきやる気になったり、意味があると感じる事柄があるというよりは、むしろ実際にやってみて実感したり、良い評価を受けたりすることで明確なセルフイメージ(自分は○○な人だ)になっていくのです。 働くということについても同様です。その仕事に就いたときからうまくできるわけではないし興味を感じられなくても、実際に体験してみて「これはおもしろい!」「やりがいを感じた」などと思い、周囲から「楽しそうだね」「助かったよ」という反応をもらったりすることで、自分なりに「これは!」と実感し、「自分はこの仕事に向いている」といった自己像を描いていくのです。
○内的キャリア自覚をはぐくむのは仕事実際に働くことで見えてくる、分かってくるものがあるということです。ですから、あらかじめ社会に出る上での前提条件ではないということになります。シャイン博士もキャリアアンカーの形成には25歳から30歳にかけての実務経験が必要であると話しています(前掲書)。 とすれば、自分にとっての内的キャリアを明らかにするための探索的な働き方も役に立つことが分かります。頻繁な職務変更を推奨しているわけではありませんが、特に若年層においてはある程度のジョブローテーションには意味があるといえます。 会社に入ってみたら自分の考えていた仕事とは違っていたという場合、だから辞めるという選択肢もありますが、敢えてそれをやってみることで自分の内的キャリアを確認するという考え方もあるということもできるでしょう。 管理職の職務配分においてもこうした点を考慮する必要があります。部下のキャリア開発に取り組むということは、単に組織の効率や生産性を考えたり、あるいは「ふつうはこうすることになっている」とばかりに順送りにしたりするのでもなく、内的キャリア探索に寄与する職務を意図的に付与していく必要があります。 この点においてシャイン博士は、「人を伸ばすもので、自分にはそれができるかどうかを学ぶため」の「ストレッチ・アサインメント(2)」を提言しています(前掲書)。本人の内的キャリアを考慮し、その実現の方向性との関係を踏まえながら職務配分を決めることが管理職には求められているのです。 このことについて丁寧な確認をするのがキャリア面接です。今後の外的キャリアの展開予定を擦り合わせるのではありません。その理由となる内的キャリアを確認することがまず重要です。何をするかの前に、なぜしたいのかその理由を明らかにするところから始める必要があります。ストレッチ・アサインメントをするといってもその理由を本人に伝えておく方が効果的です。 自己申告書はこの場面で大いに役立ちます。ただし、外的キャリアだけが記述されているもの、あるいは家族構成などキャリア開発に直接は関係のないものばかりが書かれているものではあまり役に立ちません。また、書く方も「どうせその通りにはならないのだから」と適当に済ませてしまうというのはいかがなものでしょうか? せっかくの制度であり機会です。相互理解に寄与するよう活用できるようにしておきたいものです。
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