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2009年9月10日配信
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「能力の評価・開発とキャリア」(1)
【1】
専修大学 経営学部 教授  廣石 忠司 《プロフィール》
はじめに
 キャリアを論じる際に本人の能力がどの程度のものであるかを測定し、企業が本人の能力開発をサポートしていくかは、重要な課題である。本人のキャリアプランがいかに立派なものであっても、能力の伸長がついていかなければ致し方ない。逆に能力に応じたキャリアプランも考えねばならないかもしれない。そこで今月から3回にわたり、能力の評価・開発とキャリアとの関わりを考えていくことにしたい。第一回目の今月は「能力の測定は可能か」というテーマである。

1.人事考課の全体的方向性
 人事考課の方向性としてよくいわれるのが、秘密主義→公開主義、査定主義→能力開発主義、主観的評価→客観的評価、相対評価→絶対評価、一方的評価→双方向的評価といったものである。筆者もこれらの方向性には異論を唱えるものではない。しかし、人事の現場からすると、理想はこのとおりだが、現実は難しい、ということはよくある。
 能力の評価に絞って検討してみよう。何につけても評価するためには基準が必要である。能力においても例外ではない。能力の客観的基準を設け、それに対して絶対評価を行うということは可能だろうか。筆者がコンサルタントをしていたときに困ったのは、職能資格制度構築の際、上級者になればなるほど「能力」の定義が難しくなっていったことである。たとえば部長級の「統率力」と次長級の「統率力」とはどう違うのか。文章で表すのは極めて困難である。そしてそれらの能力を有しているかどうかについても、具体的行動で示した部分ならともかく、潜在部分については正直「わからない。」
 さらに文章で表現できたとしても、そこには個人の解釈が入る余地が出てくる。全社的に統一した「公定解釈」を作るとなるとこれもまた大変である。結果として絶対基準として記述した職能基準に対比させた能力評価を行うことは不可能といっても過言ではない。

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