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キャリアに関する研究者からの提言 【キャリア・ナウ】
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2009年8月10日配信
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「企業内キャリアの実態とその意味」
  第3回 === 「非正規」労働者のキャリア形成 ===
【1】
神戸学院大学 経済学部 国際経済学科 教授  中村 恵 《プロフィール》
 ャリア形成を、仕事配分と技能形成という視点から描きなおしてきた。先回は大学院卒技術者のキャリアといういわば新卒のうち最も学歴の高い層のキャリアに注目した。しかし、仕事配分と技能形成という視点からキャリアを観察するという方法は、いわゆる新卒コア労働力だけに適用が限られるわけではない。一見奇異に思われようが、最近問題となっている「非正規」労働者の分析にも適用できる。
 わゆる「非正規」労働者のなかで最も多いのはパートタイマーである。そのパートタイマーの技能形成の実態を、筆者は20年前近くに調査したことがある(注1)。正社員補助の単純な仕事についているパートタイマーもたしかに多く存在したが、しかし他方正社員の仕事領域にまで技能を高めつつあるパートタイマーも少なからず見出された。こうした正社員の仕事にまで技能水準を上げているパートタイマーを、筆者は「基幹型パートタイマー」と名づけた。
 「基幹型パートタイマー」の出現は、実は意図的なものではなく、ややインフォーマルな形で進んだ。もともと企業側はパートタイマーに正社員の補助・補完的な仕事しか求めていなかった。だが、勤続を重ね、能力の高いパートタイマーが自然発生的に増えはじめ、一部の職場管理者がそうしたパートタイマーに正社員の仕事を部分的に任せるようになり、それが制度化していったというのが事実であったように思われる。
 つまり、パートタイマーと正社員との仕事の配分の変化がまずおこった。この仕事配分の変化を、事後的にせよ追認し、制度的に確立したからこそ、「基幹型パートタイマー」が出現しえた。こうした仕事配分にも着目して現代の「非正規」労働者を観察してみると、他の「非正規」労働者にも、この基幹型パートタイマーと似た実態を見つけることができる。
 者が観察した事例からいえば、「派遣・請負」労働者がそうである。装置産業に属するある大手メーカーのひとつの生産職場を訪ねて、その職場における生産労働者の仕事配分と技能の実態を調べたことがある。この職場では、生産ラインが5本あり、そのライン一本を原則一直あたり一人の労働者が担当していた。
 ち、難しいラインは正社員が担当していたが、比較的やさしいラインを「派遣」労働者が担当していた。だが、このラインの担当はその時点のものであり、その職場のライン全体を理解した方が長い目で見て生産性がより高まるとの判断から、折を見てライン間の異動もおこなっており、この職場のライン5本は、正規・「非正規」を問わず、いわば5人の労働者(一直あたり)全体で担当するという仕事配分に近づきつつあり、現場マネジャーもそうする方向で考えていた。したがって、その当時の現場マネジャーの関心事は、「派遣」労働者たちの技能が正社員に近づいてくれることなのであった。
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