実は正規・「非正規」労働の問題が議論されるとき、正社員と「非正規」労働者の間では、何らかの合理的な根拠等によりはっきりと仕事配分が分かれていると、少なくとも暗黙のうちに想定されている場合が多い。だが、現場を訪ね、末端の職場管理者(人事労務担当者ではない)に仕事配分の現状をたずねると、上に紹介したパートタイマーや「派遣」労働者の場合からも明らかなように、明確な仕事分担の境界がすでになくなっているか、あるいはなくなりつつあるケースが、思いのほか存在している。
こうした実態をよく認識せずに、雇用調整コストの観点からのみでこの「非正規」労働者問題を考えようとすると、いくつかのコストが見失われてしまう。つまり、(1)技能形成をすでに職場でおこなっている「非正規」労働者が入れ替わることによる本人の技能損失コスト、(2)そうした「非正規」労働者の入れ替えにともなう職場全体の短期的生産性低下圧力コスト、(3)そして本来正社員に求められるより高い技能を継承すべき要員が不足することにともなう長期的生産性低下圧力コストである。
正社員と「非正規」労働者の仕事配分での「混合」は、おそらく末端の職場管理者の生産性向上の追及が結果的にもたらしたものなのであろう。それは、そうした仕事配分が職場構成員の技能を高め、高まった技能が職場の生産性を高めるということを、直感的にせよ、理解しているからだと思われる。
以上のことから引き出される「非正規」労働者問題の解答のひとつは平凡なものである。ある範囲の中での「非正規」労働者の「正社員化」あるいは「直接雇用化」である。もちろん、「非正規」労働者には自らその雇用形態を望んでいるものが少なくはない。しかし他方、正社員を望むものには、条件を明示しながらその道があることをむしろはっきりと明示すべきであろう。
仕事の配分が技能形成を規定し、その蓄積が個別企業ひいては国民経済の生産力を支える。その意味では、(イ)誰に、(ロ)どの仕事を、(ハ)どの程度まかせるか、そしてより重要なこととして、(ニ)非定型的な仕事における比較的高度な技能を、(ホ)どの程度の量の労働者に蓄積すべきかを、対象労働者が正社員であるか否かを問わず、現場で問い続ける必要があるだろう。その問の答えの中に、「非正規」労働者のキャリア形成へのもうひとつの展望が存在する。 |