短時間正社員制度の課題
それでは、なぜ短時間正社員制度が進まないのであろうか。少し古い調査ではあるが、東京都産業局が2003年に行った『短時間正社員の可能性』 1 では、育児・介護を目的とする短時間勤務者20名と当該担当者の勤務する企業の人事担当者(13社:電機8社、百貨店5社)に詳細なヒアリングを試みている。調査結果から明らかになった短時間正社員制度の導入を阻む要因は以下の4点であった。
(1)時間外勤務を前提とした業務慣行の見直し
(2)目標管理制度の徹底と考課規準・方法の見直し
(3)管理職の短時間勤務の実績作り
(4)職場の理解促進と協力体制の構築
一点目はフルタイム勤務が当然とみなされ、短時間勤務は例外的な働き方であるとされる社会通念と、フルタイム勤務に付随する時間外勤務が常態化している会社人間中心の企業風土を指している。二点目は短時間で働くことを可能とする公正な評価と処遇に基づく人事制度が脆弱であることを意味する。これは年齢、性別、勤続年数、学歴といった個人属性と切り離した処遇制度(注:正しい成果主義と言えよう。)に加え、「長時間労働=好ましい態度・意欲」にならない客観的な評価手法(目標管理制度、コンピテンシー評価など)が必要であることに他ならない。三点目は管理職が自ら短時間勤務を行うことによって風土革新が進むと同時に前述した評価の公平性が高まるという視点である。短時間勤務者に対する評価・処遇とは正に個のマネジメントと言えよう。四点目も風土に関する要因である。たとえば短時間勤務をはじめとするワーク・ライフ・バランス施策を子育てに携わる女性社員に限定する結果となれば、男性を中心とする子育てに無縁な従業員にとって短時間勤務者は厄介な存在となってしまう。そうではなく「おたがい様」の気持ちを全員が持ち、理解・協力できる職場風土が不可欠である。
同様に大企業を中心とした35社による自発的な企業ネットワークである「ワーク・ライフ・バランス塾 2 」における「短時間勤務実験工房」における参加企業の議論でも、「職種等の違いによって制度を利用できる(利用しやすい)社員とそうでない社員がいる」、「制度導入に当たっては、社員間の公平性・納得性を高める工夫が必要である」、「会社として様々な仕事と生活の支援制度・施策を用意し、社員が適宜必要な制度を選択・利用できるような環境を整えることが重要である」という結論に至っている。
※1※
松原光代、『短時間正社員の可能性-育児短時間勤務制度利用者への聞き取りを通して』、「日本労働研究雑誌 No.528 / July 2004」。
※2※
2004年より3年間限定でワーク・ライフ・バランスを推進するために自発的に作られた企業間ネットワーク。会員企業35社、経営者団体等のオブザーバー組織5団体から構成され、次世代法に伴う行動計画策定、分科会による議論、学習院大学とのワーク・ライフ・バランス成果指標(WLB INDEX)の共同開発を行った。
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