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2009年5月10日配信
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「短時間正社員」という働き方(3)
【1】
学習院大学 経済学部 特別客員教授  木谷 宏 《プロフィール》
 短時間正社員の評価

  かつては日本企業の大半において、年齢、勤続年数、学歴といった個人の変えようのない属性に着目した属人的な評価制度や賃金体系が採用されていた。しかし90年代後半以降、いわゆる成果主義という形で、その人の役割と成果を重視した形に変わりつつある。属人主義的な処遇制度の典型は、年齢・勤続年数が処遇と強く結びつき、年齢・勤続年数が上がるにつれて自動的に評価・賃金が上がっていく年功序列型処遇制度である。また、個人の能力に着目した職能資格制度の形をとっている場合でも、職務の変更や異動の有無にかかわらず、その人の職能資格が付いて回るわけであり、この場合も属人主義的な処遇制度の一形態と言えよう。

 これらと対極にあるのが、職務あるいは仕事の成果をベースにした成果主義型処遇制度である。成果主義の最も重要なポイントは、個人の属性を最小化して、一人ひとりの役割をまず明確にすることである。そして、その人が上げるべき成果を明確にし、これに対応した公正な処遇・賃金を与えることに他ならない。この一人ひとりの役割や上げるべき成果を明確にするとともに、公正に評価するための手法として、多くの場合、目標管理(MBO=Management By Objectives)やコンピテンシーの手法が用いられている。

 短時間勤務の場合は、他の多くの従業員のようにフルタイムで仕事をしているわけではない。このため、人事考課や業績評価の基準を「その人の仕事ぶり」など人物評価に置いたままでは、「休まないで頑張って仕事をしている」、「遅くまで会社に残って仕事をしている」部下のほうの評価が高いという主観的な評価に流れがちである。そこで、短時間勤務者を含めて客観的に公平に評価するためには、属人的要素ではなく「業務」に焦点を当てて評価する人事制度・賃金体系とすることが、短時間勤務制度を導入し、円滑に運営する上では不可欠である。実際に短時間正社員制度を導入している企業の多くが、業績評価の方法として、目標管理の手法を採用している。逆に言えば、すでに、役割や成果を明確にして「業務」をベースとした人事制度・賃金体系を確立している場合であれば、短時間勤務者についてのみ特別な人事考課・業績評価の手法や基準を取り入れる必要がなく、短時間正社員制度を容易に導入することができるものと考えられよう。

 個人を評価する手法は、「何を判断するためにどのような点に着目して評価するか」という目的によっていくつか使い分けることが可能である。目標管理制度による評価は、一定期間ごとに目標を設定し、その達成度合(成果)を基に評価するものである。このため、賞与の査定に連動させるのが効果的といわれ、また、もっとも分かりやすい制度と言えよう。一方、昇進・昇格・異動など組織内での個人のキャリア形成・キャリア開発に関わる部分を判断・評価するための手法としては、「発揮した能力」に対する「コンピテンシー評価」の手法を採用している企業が多くみられる。

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