前号 キャリア ナウ 次号

2006年9月10日配信
キャリア ナウ 一覧へ戻る
個人の自律的キャリア開発と日本型組織モード
【1】
神戸大学大学院 経営学研究科 教授   平野 光俊   《プロフィール》
1.人事は流行に従う?
 日ごろ企業の人事スタッフの方から、わが社の人事をこう変えたいがどう思うかといった相談をよく受けます。いわく、成果主義的報酬を強めたい、幹部候補の選抜育成をシステマチックに行いたい、パートなど雇用形態の多様化を進めたい、女性の活躍を推進したい、といったことです。その中で最も多いのが、「社員の主体的なキャリア意識を高め、自律的キャリア開発を進めるにはどうしたらよいか」というものです。
 その折にいつも思い出すのが、「組織は戦略に従うというより、むしろ流行に従う」と言った、ある社会学者の印象深い言葉です。組織を人事に置き換えても同じことが言えます。人事スタッフは、最近の人事管理の動向、とりわけ業績の良い企業の人事管理の内実を知りたいという気持ちが強い。そして、それをベンチ・マークとして自社に取り入れようとするから、どこもかしこも似たような人事管理の様式に収斂(しゅうれん)していきます。つまり、ある一面では「人事は流行に従う」のです。
 しかし、ある企業において効果があった人事の仕方が、自社でも効果的であるという保証はありません。また、他社の人事管理を表面的に観察してもその本質を抽出することは難しい。言い換えれば、企業の持続的競争優位はそもそも当該人事管理が他社にとって模倣困難であるからこそ、その源泉となるという戦略論の命題を自覚すべきであるように思います。確かに、優れた業績を継続してあげる企業の人事管理を学習して模倣することは重要です。しかし、人事管理は企業個別の様々な事情と複雑に結びつきますから、「わが社らしさ」をつきつめてアレンジしていかないと意図せざる適応不全を起こします。
 たとえば、80年代、「日本型人事管理」は競争力の源泉として世界から注目を浴びました。
 しかし、90年代のデフレ不況下にあって企業業績が下振れすると、一転してその原因を日本型に帰属させる論調が頻出しました。しかし、それらの多くは、日本型を、人事部主体の画一的・年功主義的な人事管理と粗雑に規定した上で、ライン主体の個別的・職務主義的な「アメリカ型人事管理」への転換を主張するものであったように思います。他方で、この2~3年は、日本企業の堅調な業績回復を背景に、行き過ぎた成果主義を戒め、日本型への回帰を訴える主張が出始めています。いったいどちらの主張が正しいのでしょうか。「わが社」はどちらの考え方に則したらよいのでしょうか。
 同じように、今何ゆえに「わが社」に自律的キャリア開発が必要なのでしょうか。自律的キャリア開発は単なる流行であって、もしかするとあなたはそれに乗り遅れないようにしているだけかもしれません。
  1/3 続きを読む >>
▲このページのTOPに戻る