| ワーク・ライフ・バランス政策の意義は、従来の働き方を放置することによる働く人のモラールダウンや組織の活力の低下、それに起因する問題の大きさにある。多くの国では共働きが世帯の標準形となり、仕事と生活の両方に軸足を置く労働者が増えている。かつては、男女の役割分業を前提に男性が仕事、女性が家庭という役割分担をすることで、働く人のワーク・ライフ・バランスの問題は覆い隠されていた。しかし、こうした役割分業意識は、少なくとも日本以外の欧米諸国では急速に希薄化し、男女が共に働き家庭責任も担う、さらに自分自身の生活も充実させたいという意識が強まってきている。
さらに、経済や技術の発展が、労働時間の短縮に向かわずに、むしろ経済的な豊かさや便利さを求める社会の中で効率性が追求され、労働が強化される事態に至ってきたという社会の大きな変動も見逃せない。クリントン政権で労働長官だったロバート・B・ライシュ氏が、「勝者の代償」という本で、ニューエコノミーの進展が、勝者には富をもたらしたが、反面で家族やコミュニティとのかかわりを希薄にしたことへの問題指摘を行っている。 ワーク・ライフ・バランスの必要性が高まっているのは、働く人の自己主張や希望への対応にとどまらず、新しい経済社会の構造の中で、こうした対策をとらなければ、働く人がさらに疲弊してしまうことへの警鐘ととらえることができる。
また、我が国に顕著にみられる長時間労働は、非効率な働き方がその背景にあるのではないか、と指摘されることも多い。一定の労働時間の中で仕事を終わらせることよりも長く職場にいることが評価されるような職場風土の企業は残っている。無駄な仕事をそぎ落として必要な仕事に集中するという業務の見直しがなされないまま、仕事ばかりが増えている職場が、経営的にみて効率的であるはずはない。働く人が「タイムマネジメント」意識を高め、仕事に優先順位をつけて職場全体として無駄をなくしていくことにより、仕事の時間生産性も高まり、それによって、自分のため、家族のための時間を作り出すことに貢献するはずである。
ワーク・ライフ・バランスは従業員に優しいだけの政策ではない。企業にとっても、それによって生産性の向上につなげていくことが可能なのである。ワーク・ライフ・バランスが働く人、企業双方にとってメリットをもたらす「Win-Win」の施策といわれるのはこのためである。
資料:ニッセイ基礎研究所「両立支援と企業業績に関する研究会報告」(2006)より
注:この研究では、「ワーク・ライフ・バランス施策」の一部である育児や介護等家庭生活と仕事の「両立支援策」の取組状況と企業経営のパフォーマンスとの関係をみている。分析の詳細は、佐藤博樹・武石恵美子編『人を活かす企業が伸びる』(2008年、勁草書房)を参照されたい。
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