ワーク・ライフ・バランスを進めるというと、従業員のために、というニュアンスが強く、企業にとってどのような意義があるのか、ということが常に議論となる。世界的に不況の色が濃くなっており、企業の経営環境が厳しいこの時期に、ワーク・ライフ・バランス以前に企業の存続を考えなくては、という経営者の声が大きくなるのは無理もないかもしれない。
こうした発想になってしまうのは、企業の実施するワーク・ライフ・バランス施策について、子育てや介護で困っている従業員を支援する、というスタンスで取り組むからではないだろうか。ところが、ワーク・ライフ・バランス施策に積極的に取り組む企業では、従業員のための福祉施策と位置づけず、人材戦略の一つに位置づけるようになっている。経済はグローバル化し、世界的に企業の経営環境は厳しくなっている。同時に、先進国の多くが、ワーク・ライフ・バランスへの取組を進めてきたのも事実である。企業経営環境の競争激化とワーク・ライフ・バランス、一見相容れないようなこの二つの変化が、多くの国で共通に起きている意味を考える必要がある。
すなわち、働く人々の変化に対して、企業の人材マネジメントのあり方も変化する必要があり、そうしなければ人材の確保や定着、モチベーションの向上を図ることが難しいと考えられるようになってきたのである。近年、こうした施策が企業にとってどのようなメリットをもたらしているのかと研究が進められてきているが、ワーク・ライフ・バランス施策の実施により企業の経営にプラスの効果を及ぼすとの結果を導いている。とりわけ、従業員の育成やキャリア形成に長期的な視点で取り組む企業において、こうした施策の重要性が指摘されている(図参照)。
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