実践コミュニティとは何か
キャリア支援者にとっての「実践コミュニティ(communities of practice)」は、この領域に関心を持った人々の交流と活動の場であり、学習(=キャリア発達)の母体である。また「実践コミュニティ」は、人々がそこに参加することを通じて役割とポジションとアイデンティティを獲得する社会的な学習過程を分析するための枠組みを示す、状況的学習論の「鍵」概念のひとつである(Lave and Wenger 1991 佐伯胖訳 『状況に埋め込まれた学習-正統的周辺参加』 産業図書)。心理学やカウンセリングの教科書で馴染みのある伝統的な学習論は、その前提として学習が個人の頭の中や身体に蓄積される何かという考えに基づいている。状況的学習論が従来の学習論と根本的に異なる点は、学習の本質を社会的なものに置き、実践を通じてコミュニティの一員となってゆく参加の過程と捉えるところにある(注1)。
実践コミュニティの構成要素は、(1)一連の問題を定義する領域(本稿でいえばキャリア支援)、(2)この領域に関心を持つ人々の相互の関わり、(3)人々がこの領域内で効果的に仕事をするために生み出す共通の実践(相互に獲得され、かつ生み出される知識や技能、ノウハウ、コミュニティの規範など)、の3つである。これらの3つの要素がかみ合って初めて、実践コミュニティは知識を生み出し、共有する責任を担うことのできる社会的枠組みとなる。実践コミュニティと呼べるためには、キャリア支援という領域に強い関心を持った人々の関わりを通じて、実践が共有されていることが必要である。教育機関や資格認定団体がイコール実践コミュニティというわけではない。その中に実践コミュニティが生まれる素地があるというだけである。
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