キャリア形成推進マガジン
キャリアに関する研究者からの提言 【キャリア・ナウ】

2008年6月10日配信
キャリア ナウ 一覧へ戻る
自立性と価値コミットメント
【2】
産業能率大学 経営学部 教授 城戸 康彰
 立性については、既に「自立創造型社員」といった言葉が使われている。顧客情報を豊富に持っていたり、ビジネスの機会に接しているのは現場の人材であり、この人材にエンパワーメントをして最大限に力を発揮できる状況をつくれば価値創造はできるということである。
 立性は、知識労働にとっても必要な条件である。知識労働とは、高度な専門能力や教育、経験を基盤に知識の創造、伝達、応用する仕事である。価値創造の中核部分は、知識労働といえよう。ダベンポート,T,H.は知識労働には次のような特性があるという(『ナレッジワーカー』、ランダムハウス講談社、2006年)。
 つには、知識労働者は、自分の専門知識や経験を使い自力で考えなければならない。その領域に他者が踏み込むことはできないのである。第二に、知識労働のプロセスを定型化することが難しく、「見える化」して管理することができない。なぜなら、知識労働の主たる部分は、思考のプロセスであり、それを明確な要素に分解して捉えることが困難だからである。要素に分解できない以上、標準をつくったり効果測定ができず、従来の形での管理はできない。
 局、知識労働においては、知識労働をする人の自立性、(むしろ自律性といった方がよいであろう)に依存せざるをえないのである。
 値コミットメントとは、会社のビジョンや理念、会社の社会的使命等の価値的なものにコミットしていることである。この価値コミットメントは、以下の点から重要である。
 つは、先程の知識労働と関係している。人材の自立、自律性に任されるような知識労働において成果や生産性は、人材のコミットメントの高さにより決まってくることがある。上司の管理や見える化といった外的手段で管理ができないとすると、人材の内面に管理の軸は移る。つまり、価値や目標にコミットしていると、自ら動機づけてその実現に向かうのである。
 二は、より深い動機づけや満足感を働き手にもたらすことである。金銭的報酬や社内の地位を求めて働くことは、個人の経済的、功利的な計算に基づく働き方である。外在的報酬により動機づけられるともいえる。価値コミットメントに基づく働き方は、経済的、損得計算を超越したより高次な次元でのものとなる。「何のためにこの会社で働くのか」という根源的な意味に応えることになるのである。意味報酬による動機づけともいえ、計り知れないエネルギーを人材から引き出したり、至高経験ともいえる満足感を人材に与えることになる。

☆ 次回は内発的動機づけと創造性の関係について掲載する予定です ☆

<< 前に戻る 2/2 最初のページへ戻る
前号
次号
▲このページのTOPに戻る