前号では、ヒューマン・キャピタル・マネジメント(人材尊重マネジメント)の目的と具体的な実践プログラムの在り方を検討した。今号では引き続き、人材尊重マネジメントの下における人材の訓練と開発の在り方を検討する。
■ 自律性を尊重する訓練と開発
人材尊重マネジメントでは、人材の自律性を何よりも尊重する。この考え方は人材育成と開発にも適用される。古い諺にも言われるように、「馬を水辺に連れていくことはできても無理矢理馬に水を飲ませることはできない」。同様に、自律的に学ぼうとする意欲に欠ける人材、自分を開発していこうとする意志の伴わない人材に無理矢理訓練と開発活動を強いても、学習と開発は進まない。よってここで企業は、自律的に自己を向上させ、開発していこうとしている人材にこそ、優れた学習と開発のための環境と機会を提供することを目指すべきであろう。
■ クラスルームから現場へ
最近「現場力」という言葉がよく使われる。これは、"経営に携わる者は、製造や販売の現状をよく理解し、その理解に基づいて的確な意思決定をし、実行できなければならない"ということを意味する。
さて、このような現場力、または現場に軸足を置いたコンピテンシー(優れた業績を生むことに貢献する職務遂行能力)を、クラスルームの座学を通じて向上させることが可能だろうか?
これはなかなかに困難と言わざるを得ない。たくさんの学習者を一つのクラスに集めて教育する形式では、職務遂行能力に含まれる「知識」部分のみを教えることに留まりがちだからである。もちろんケーススタディやシミュレーション等を通じて、実践に役立つ意思決定能力を磨くといった工夫もなされているけれども、それでも現場で活用できるコンピテンシーを向上させることはかなり難しい。
そこで最近「アクション・ラーニング」という方法が提唱され、活用が始められている。このアクション・ラーニングとは正に言葉どおり、"アクション(行動)を通じて学習を促す"という方法である。具体的には、将来、経営のリーダーシップを担うことが期待される優秀な若手の人材を20名ほど選考する。最初の3~4週間は、クラスルームで現場で役立つ経営の基礎(財務・経理、人材マネジメント、戦略、ロジスティック等)を集中的に教育する。その後、1組5名程度に分けられた人材は各グループごとに、企業の製造、販売拠点、支社を訪れる。各事業所を訪れた5名単位のグループは、現場のマネジャーと会い、状況を把握、分析し、問題点を抽出し、先のクラスルームで学んだ理論と方法を駆使してソリューションを導き出す。現場での学習と研究は2ヶ月から3ヶ月に及ぶこともある。最後には各事業所のゼネラル・マネジャーに対して、ソリューションをプレゼンテーションして研修を終了する。この全期間を通じ、参加する若手の人材は、現場の現実の問題に挑戦し、仲間と協力して問題解決に取り組むことをとおして、いわゆる現場力を身に付けることができる。その後のキャリア開発においても、この研修を通じて身に付けた実践に役立つコンピテンシーを役立てて、次々に問題解決に取り組み、キャリアを伸ばすことが期待される。 |