■ 人材は企業にとってキャピタル(資産)
人材マネジメント、または人事管理はこれまで保守的に運用されてきた。各企業の人事部門は、体系的な人事制度や人事プログラムを作り、それらをつつがなく実施することに努めてきた。また1995年以降、企業のコスト削減の一環としてリストラ(人員削減)を続けている。これは日本企業のみならず、欧米企業にも共通して見いだせる傾向である。その結果企業の人材は、自社の人事部門を"経営を代表して、冷たく人材を解雇し、人材を顧みない部門"としてとらえる傾向が強まっている。
しかし上記の傾向を反転させるために、企業の人材をキャピタル(資産)としてとらえて、真に人材を尊重しようという考え方がようやく広がり始めている。つまり人材をリソース(資源)としてとらえるのではなく、キャピタル、またはアセット(資産)としてとらえようと提案する考え方である。
リソースは原材料、あるいは長い間にその価値を減価させる資源という意味を持つ。これに対してキャピタル(またはアセット)は効果的な投資を続けることによって、長い間にその価値を増大させる資産(または資本)を意味する。企業に属する人材を資源としてとらえるべきか、資産としてとらえるべきかといえば、効果的な教育投資を続けることを通じて、その価値を増大させるキャピタル(資産)としてとらえるべきことは明らかだ。
ハーバード・ビジネス・スクールではいち早く、「ヒューマン・リソース・マネジメント」の呼び名を改め、「ヒューマン・キャピタル・マネジメント」という呼び名に替えている。私もこのトレンドを反映し、かつ、この考え方を強調するために、「人材マネジメント」に代え、「人材尊重マネジメント」と名付け、この呼び名を日本で広めようと努力している。
この人材尊重マネジメントに含まれる、もう一つの重要な考え方は、人材を企業によって雇用された被雇用者(エンプロイー)ではなく、企業という法人と対等な立場に立つ「パートナー」としてとらえる、という考え方である。つまり個々の人材を固有のコンピテンシー(優れた成果を生む能力)とモティベーション(やる気と貢献意欲)を備えた、自立した主体として認め、尊重する考え方である。 |