人材育成について企業を訪問すると、まずもって訓練設備とか教育体系図とかを示される。設備不要というのではない。体系無用というのでもない。しかし、額縁に入っているだけの経営理念、社是社訓どおりに組織が動いていることは少ない。現場を離れた研修センターがいかに立派でも仕事の現場に生かされていないことは多い。制度の図面や文書が立派であるということと日々の部下指導に当たる上司の育成姿勢ができているということは別物である。
人材育成はまずもって日々の課業をこなしていくなかで、できる。まずもって上司や同僚との仕事上や仕事を離れた関係の中で、できる。これはその会社の経営戦略・事業戦略について一冊の本さえなくても、理屈にあった立派な戦略を日々実践しておられる会社があるのと同様である。むしろその会社の事業戦略や人材育成作戦が、まとまった文書になっていなければいないほど、他社に盗まれることはない。自社の人材育成のノウハウを雑誌や新聞に書いて競争相手に読まれる愚をおかさないためには、まさに現場で、そして日々の人の動きや、その人々の組み合わせの中に、人を育てる仕組みが備わっているのがよろしい。
そうすれば人が育つだけではない。育つ仕組みが競争相手には分かりにくい。また、一人、二人が個別に辞めたところで、その事業ごと、職場ごと、ごそっと抜かれない限り、流出はしない。
まさに個別の人が育っても、育つ仕組みから離れれば、その人の成長はストップするように、業績が個人の努力だけに依存するのではなく、仕事をする仕組みに依存するようにしておけば、人の流動化時代に経営が危うくなることは少ない。そして個人別業績主義人事とやらに振り回される必要もない。業績を上げることは大切である。業績管理は大切である。業績報奨も大事である。しかし個人個人が競争をし互いにノウハウを教えない、互いに同僚を育てない、自分さえ報奨をもらえればよいというような個人別業績主義人事をやれば、会社の組織からはノウハウを消すのも同然である。
自分の職業能力を育てるだけでなく、部下のそれも同僚のそれも、それどころか上司のそれまでも育てあう、そうした継続学習集団としての組織作りをしたければ、個人別業績主義をやめ個人別には能力主義を強化し、集団業績主義(チームワーク報償制度)を考えるべきである。 |