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2005年6月10日配信
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キャリア・コンサルティングの質を高めるために
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産能短期大学 教授   小野 紘昭   《プロフィール》
 キャリアへの関心がここ数年とても高まってきている。そのこと自体はとても喜ばしいことである。しかし、こうしたキャリア意識の向上とともに、幾つかの問題点が吹き出していることも事実である。
 その問題の一つに、キャリア・コンサルティングのスタンスの取り方がある。つまり、「主体性」とか「自律性」がどれだけ自覚されているかということである。ここでは、この問題をキャリア・コンサルタントとクライアント(相談者)双方の立場から考えてみよう。

なぜ、キャリアでないといけないのか
 今はキャリアについての基本的な考え方が未整理のままに多方面で使われ、それぞれの分野で異なって解釈されるために、現場で様々な混乱が生じているようである。
 キャリア・コンサルティングにおいては、就業のための支援は確かに大切な役割に違いないが、それでは従来からの職業相談と何ら変わりはなくなってしまう。今、キャリア・コンサルティングの大切さが認識され、キャリア・コンサルタントの役割の重要性に気づくようになった根っ子には、「自分探し」が「仕事探し」になかなか結び付かないという現実がある。クライアントにとっては、何とかそのギャップを埋めていきたいという切実な願望があるからである。
 そこで、キャリア・コンサルタントはクライアントが発達過程の中で、どのようなポジションや役割を得て、仕事にどのように関わっていくのかという「外的なキャリア」の問題と同時に、個人が仕事との関わりで、どのような価値や意義を見いだしていくのかという、「内的なキャリア」の問題に深く関わっていくようになってきている。こうしたキャリアの持つ多面性が、キャリア・コンサルティングのスタンスを複雑にしている理由の一つでもある。

押し付け的になっていないか
 キャリア・コンサルティングが、一方的になっているという声をよく耳にする。そのため、クライアントはキャリア・コンサルタントに不安感を抱いて反発するか、反対に、むやみに依存してしまうということが起きているようである。
 キャリアの問題はあくまで個人の主体性に関わるものであって、そのために一般通念的な良いか悪いかという価値基準で判断することは、差し控えなければならない。しかしながら、私達はこのことをしっかりと勉強したにもかかわらず、キャリア・コンサルティングの現場では、自分の考えや経験を押し付けてしまうことをしがちである。
 特に若年者や学生を支援する場合は、往々にしてこうしたことが軽視されがちである。なかでもフリーターやニートの就業支援をするともなると、あれやこれやと手を出さざるを得ないということも現実であろう。また、職業紹介の現場では、そんな悠長なことを言っていられないという現状もあるであろう。しかし、そういう時にこそ自分が今、どのような状態になっているのかに気づくことは大切なことである。自分のスタンスについて、あえて介入的なアプローチをせざるを得ないことを認識しているか、そうでないかは大違いである。それはクライアント自身が自律的になることを促進させるか否かだからである。
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