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2004年6月10日配信
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キャリア・コンサルティングとは
職業心理学研究者、元筑波大学教授   木村 周   《プロフィール》
 「キャリア・コンサルティングはカウンセリングなのか」、「キャリア・カウンセリングとどこが違うのか」という質問を受けることが多い。研究者のなかでもいろいろな議論がある。私は結論から云えば、「カウンセリングを中心としたキャリア形成に関するいろいろな支援が一体となったもの」、すなわち、「Career Guidance and Counseling である」と考えている。今回は、キャリア・コンサルティングの概念について考えよう。

1.キャリア・コンサルティングの定義
 「キャリア・コンサルティング」の公式の定義は、第7次職業能力開発基本計画に「労働者が、その適性や職業経験等に応じて自ら職業生活設計を行い、これに即した職業選択や職業訓練等の職業能力開発を効果的に行うことができるよう、労働者の希望に応じて実施される相談をいう」と定義されている。
  文章の末尾が「相談をいう」であるから、中心はカウンセリングである。しかし、その中に職業能力や職業経験の棚卸し、職業や能力開発情報の収集、計画の作成、試行的経験、意志決定とその実行などの支援が必然的に含まれる。
 相談はキャリア・コンサルティングの中心ではあるが、それだけではなく上記のような支援が一体となって行われる。その証拠には「労働者の職業生活設計に即した自発的な職業能力の開発及び向上を促進するために事業主が講ずる措置に関する指針」(平成13年9月12日厚生労働省告示第296号)では、これを「情報提供、相談その他の援助」と表現されている。

2.キャリア・ガイダンスの6分野
 キャリア・カウンセリングの発祥の国アメリカにおいても、はじめ職業相談、雇用相談と言われていたカウンセリングが、時代の変化に対応したキャリアの意味の変化や広がりを取り込んだ支援という意味でキャリア・カウンセリングと呼ばれるようになった。その中には、単に相談だけではなく、その他の援助が含まれるのは当然と理解されている。その意味では、キャリア・コンサルティングは今日的意味のキャリア・カウンセリングそのものであると私は考える。我が国では、カウンセリングというと、個人の心に深くかかわる心理的な療法のみを指す傾向が強いので、あえてカウンセリングという言葉を使わなかったのだと私は思っている。
  このような意味で、アメリカでは一般に「Career Guidance and Counseling 」と一対の言葉で表現される。では、ここで言うガイダンスとは何をするのか。職業心理学、教育学などの学問や進路指導、職業指導などの永年にわたる研究と実践から、私は次の6つのことを行うことだと考えてきた。

1) 自己理解:進路や職業、キャリア形成に関しクライエントが自分自身を理解するよう援助すること。
2) 職業理解:進路や職業、キャリア・ルートの種類と内容をクライエントが理解するよう援助すること。
3) 啓発的経験:選択や意志決定の前に、クライエントがやってみることを支援すること。
4) カウンセリング:選択や意志決定を支援するためにカウンセリングを行うこと。
5) 方策の実行:進学、就職、キャリア・ルートの選択や変更など、意志決定の実行を支援すること。
6) 追指導・職場適応:実行した方策の結果をフォローし、適応を援助すること。

3.学校、職業紹介機関、企業の連携
 キャリア・ガイダンスとカウンセリングは今日別に事新しい世界ではない。学校教育における進路指導と、職業紹介における職業指導では、古くからそれぞれ学校教育法、職業安定法に基づき、資格を持つ進路指導担当教師や職業指導担当職員が、学生や求職者にキャリア・ガイダンスの6分野を支援してきた。具体的やり方も学習指導要領や職業紹介要領などに詳しく示されている。
 キャリア形成は、学生時代の教育と学校から社会にでるときの職業選択や就職という形で基礎が創られるが、その後、就職から引退、さらには引退後の生活という人生全体の中で形成される。広い意味の労働の世界に入った人に「キャリア・ガイダンスの6分野」を支援することがキャリア・コンサルティングであると私は考えている。
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