キャリア形成推進マガジン
キャリアに関する研究者からの提言 【キャリア・ナウ】

2011年3月10日配信
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=== 企業におけるメンタルヘルスについて === 【第四回】
メンタルヘルス予防におけるキャリア・カウンセリング
― 三次予防 ―
【2】
神田東クリニック MPSセンター 臨床心理士 GCDFキャリアカウンセラー 大庭 さよ
 第一段階は、「何かが終わる」局面であり、これまでの関係や役割から離脱したり、慣れ親しんだアイデンティティや方向感覚を喪失する段階である。休職により、一時的に職業役割、職場の人間関係から離れ、家庭生活中心の日常生活になる。これは慣れ親しんだ職業人としてのアイデンティティを一時的に喪失することとも言える。相談者は、自らがメンタルヘルスの不調に陥ったこと、その結果として休職をせざるを得ないこと、を頭でわかりながらも、実際にはなかなか受け入れがたい思いでいることが少なくない。こころの病や休職を受け入れていき、「今は休んでもいいんだ」と思えるようになるのがこの段階である。

 第二段階は、ニュートラルゾーンと呼ばれ、一時的な喪失状態に耐える段階である。この段階では、メンタルヘルス不調に影響したキャリア上の問題があると思われる場合には、ライフラインを用いて、過去・自己への探索を行うことがある。ライフラインとは、相談者の人生で何がテーマになっているかを見つけ出し、物語を再構成していくことを援助するスタンスに立つナラティブ・アプローチによるキャリア・カウンセリングにおいて用いられる方法である。

 具体的には、図2のようなライフラインシートに、相談者にとって、重要だと思われる出来事、転機だったと思われる出来事を生まれてから(時間的制約がある場合には、就職前から)現在までを時系列順に、ポジティヴな出来事はその程度に応じてプラスの領域に、ネガティヴな出来事はマイナスの領域にプロットしてきてもらい、時系列順に語ってもらう。その語りを通じて、〔1〕今回の休職の背景にあるものは何なのか(=休職の誘因) 〔2〕これまでどのように困難に対処してきたのか(=コーピング 、ソーシャルサポート) 〔3〕人生の節目においてどのような意思決定をしてきたのか(=意思決定パターン) 〔4〕人生において大事にしているものは何か(=価値観) 〔5〕自分の本当にやりたいことは何か(=欲求) を明らかにしていく。そして、休職の誘因となったものに対して今後いかに対処していくのか、復職後どこでどのように働いていけばメンタルヘルスを害することなく働き続けることができるのか、がおぼろげに見えてくると次の第三段階に入る。

 第三段階は、「何かが始まる」局面であり、新しく生まれ変わって船出できる段階である。この段階では、古いアイデンティティと新しいアイデンティティが再統合される。相談者自身の「もうそろそろ大丈夫」という感覚を確認し、この段階に入ると復職に向けて内的、外的準備を進めることがキャリア・カウンセリングの目標となる。「どの職場に戻るかが心配」「前のように働けるかが不安」「元気にはなってきたけど、もうあの会社に戻る気はない」など相談者により様々であるが、この段階にきて相談者と環境との適合の問題が浮上することが多い。復職においては、もとの職場に戻すことが原則であるが、事例によっては、職場を変更することもある。「前の仕事はどのようなところが向いていないのか」「どのような仕事、どのような働き方」だったらやっていけそうか」ということを相談者と一緒に整理していくことにより、復職後のキャリアを考えていくことになる。

 復職直後から「早くみんなに追いつかなければ」「休んだ分を取り返さなければ」と焦燥感にかられる相談者は多い。また、復職後の人事評価において思うような評価が得られず質問する相談者も少なくない。復職後のキャリア・カウンセリングにおいては、どうしても短期的な視野に陥りがちな相談者に時間的展望を持たせ、中長期的なキャリアにおいて今何をすべきか、何を優先すべきか、を共に考えることによって焦燥感から無理を重ね、再発に陥らないように支援することが重要である。また、不調のサインが出てきた時に少しでも早く気がつき、再度休職に至らないように援助することも必要であろう。

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