ところが、またT部長から、以前の事業所の時のように「経理業務改善をするように、さらに、全員がアイデアを提案するように」との指示がありました。Kさんの頭には「業務命令なので従うしかない。だけど、以前の時には・・・」と苦しい思い出がトラウマのようによみがえってきたけれど、何とか気持ちを切り替えて自分なりに頭を絞って提案したとのことです。直属の課長は自分の提案を承認してくれて、T部長に回してくれましたが、T部長からは「これで改善になるのかね・・」と細かな質問を投げかけられると、Kさんは「またT部長から"ケチ"をつけられている」と落ち込んでしまいます。さらに間に入った課長は、部長命令なのでそのまま提案書を返して、知らないふりを決め込んでしまいます。
そんなある日に経理部の飲み会があり、Kさんは気が進まない気持ちを押し殺して懇親会に参加しました。始めのうちは仲間と楽しく懇親をしていて、T部長にも気を使って接していましたが、T部長が「おまえの親は○○という人で、仕事は△△なんだよな。」と親の話を持ち出したために、「親を中傷された。自分は与えられた業務を忠実にしているのに、親は関係ないだろう」とKさんは憤慨し、その場でケンカしたいほど怒りのモードは最高に達しました。しかし、そこはサラリーマン・・・。怒りとともにひどく落ち込んでしまった気持ちを抑えて、懇親会のお開きまで我慢して、一人寂しく自宅に帰ったそうです。それ以後は毎日の仕事も集中力もなく、仕事上のつまらないミスも出てきて、日に日に落ち込みが激しくなり、「職場を異動したい」との気持ちになってきているとのことでした。
そして、仕事の内容や過去の経験などじっくり聴いていくと、「あの時は自分のミスをT部長(当時は課長)が補ってくれたことがあった」。また、「入社時にも細かな指導をしてくれた」などの肯定的なことがらも思い出すようになり、「自分の立場で不満を言っていたけれど、上司のT部長も自分の事を成長して欲しいと思って、親心で言ってくれているかも・・・。自分の親を引き合いに出した飲み会の発言は許せないが、それ以外は適切な指導をもらってきた」と、気づくようになってきました。面接の進行とともに、Kさんの自己理解や仕事理解が徐々に深まってきたのでしょう。
Kさんのその後の発言には「職場異動をしたいということを他人(カウンセラー)にお願いするべきではありませんね。」との余裕がもどり、そして面接の終わりには、「課長やT部長との関係を良くすることも考えて、今までは出勤時間が9時過ぎでしたが、もう少し早く始業時間前に会社に出勤して、挨拶することを心がけて、関係を良くすることにします」と自分で関係改善の糸口を見い出しました。そして、「ご迷惑をおかけしました。話を聴いてもらってありがとうございました」と丁寧にお礼を述べて、自分から席を立って帰っていきました。
Kさんは、過去の苦しい経験により、T部長を短絡的に理解して、その結果良くないイメージを持ち続けていたようです。しかし、カウンセリングの進行とともに、冷静さを取り戻してT部長を多角的に捉えることができるようになって、新しい気づき(T部長は自分の事を考えてくれている)を得ることができました。 |