ある日相談に訪れた社員から「上司とMBO(目標管理制度)による面接や評価面接などを行ってもらっていますが、上司と話をするのが嫌なんです」との発言がありました。その後、他の数人の方からも同じような話を聴くことがありました。「自分自身のやりたい仕事や夢はあるのだが、上司は自分自身が経験したことを丁寧に説明し続けるだけで、なかなか私の話を聞いてくれない。だから私は何も言いたくなくなる。上司は自分の経験どおりになって欲しいとの(余計な)親心で、自分と同じ経験をすることを部下に押し付けている。このような面接ならやりたくない」と心の内を話してくれます。
一方、その上司は熱血漢で会社制度を忠実にこなし、「忙しい中だが一人20分も時間をかけて丁寧に面接している。うちの部下は満足している」と胸を張って話してくれます。この上司は飲み会なども積極的ですし、見方によっては、"人情味のある尊敬できる上司"と人事部門には見えるかもしれませんね。上司とのカウンセリングで、私が「部下とどのような面接をしているか少し教えていただけますか?」と言うと、上司は「私が会社に入った時には同期もたくさんいて、仕事はいつも競争だった。なるべく多く給料をもらいたいし昇格もしたい。自分自身で体験した、お客様とのトラブル対応や新商品開発の辛い経験を部下に話して、部下には自分のようにがんばる習慣をつけてほしい...」など自慢を含めながら自分の話をたくさんしていました。上司は部下に"自分のやってきたように育って欲しい"と望んでいるようでした。上司の説明を聴いた後、私が「ところで、上司と部下とで話した時間はどちらが多かったですか?」と質問すると、ちょっと考えてから「半々くらい」と答えます。私が部下たちのカウンセリングの中で聴いたことによれば「9割以上は上司の時間」のようです。上司は面接中の自分の態度に気付いていないようです。
さらに、上司は管理職研修や評定者訓練などで「人の話を聴くことの大切さ」を学び、お金や時間をかけてコーチングも勉強していますが、実践の場ではその学んだことがあまり活かされていないようです。大変もったいない事ですね。少し斜めから見た言い方ですが「上司は部下に成長してほしくないと思っている」のではないかとすら感じてしまいます。高度成長時代では「今まで経験したことを繰り返し着実に行う」ことで事が足りていたかもしれませんが、その後の経済変化にともない、現在ではその場の環境に適した選択が求められ、まさに"過去に経験したことが必ずしも通用しない時代"になっているわけです。このような環境下で上司が自分の経験を押しつけたところで、部下の課題解決にはつながらないことも常に考慮しなければなりませんね。一つの参考にはなると思いますが、それで問題が解決するとは限りませんね。 |