| 認(にん)とキャリア・コンサルティング
「認(にん)」ということばがある。このことばはコンサルティング・プロセス(以下、プロセス)を通じて相談者の心的な変容のプロセスをイメージするのに役立つと思う。認は「心」に「刃(やいば)」と書き、さらにそれに「言」を加える。認は、他者から承認してもらうという意味で使うこともあるが、むしろ、ここでは相談者が自分自身を承認する、すなわち否定的な自己像を肯定的な自己像として認めることができるようになるという意味で使うことにする。
まず、「忍」とは相談者がコンサルティングを通じて自分自身を肯定的に受け容れられるようになる前の心の状態をイメージしていただきたい。
相談者は様々な状況下で、悩みや不安、焦燥感を抱えながら来談する。その時の相談者は、時には揺れ、時には乱れ動く心のアンバランスさを修正しようと必死に試みようとするが、思ったようにいかない現状にジレンマを感じ、責められる心と責める心といったふたつの心が同居している。相談者はそれらの心の狭間で葛藤状態にあり、その状態に耐え忍び続けて疲れきっている。この状態の相談者は「もっと頑張れよ」というもうひとつの自分の心が「こうなったのは自分が悪いからだ」という否定的な自分の心をあたかも「刃」となって自傷するかのように自分で自分の心を攻め立てる。
つぎに「言」とは、コンサルティングを通じて、相談者と私との間で織り成す、言語的・非言語的なコミュニケーションをイメージしていただきたい。
相談者は自分の置かれている現状をどうすることもできずにただ耐え忍びながら、私のもとに訪れる。
相談者はコンサルティングという空間で私とのコミュニケーションを通じて、今までひとりで耐え忍んできた自分自身の心を認めようと心的な変容を覗かせる。
相談者は内省が深まり自分で自分を傷つけている状態に気づき始めると、彼らの心はいっそう揺さぶられていく。そのような中、当初の相談者は「私は私のままで、いいんですよね・・・」と自分を肯定的に捉えてもいいのかと、私に承認を求めてくる。私が相談者の揺さぶられている気持ちに付き添っていくと、彼らは自分を肯定的に捉えようとし始める。しだいに相談者は他者の承認を得ることなしに、「私は私・・・、これでいいんだ」と自分で自分を認められるようになっていく。もちろん、そこに至るまでには紆余曲折があることは言うまでもない。
相談者が「忍」から「認」への心的に変容していくためには、そのプロセスにおいてコンフロンテーションが有効な場合がある。それによって、相談者は自分の内面に直面することになるため、相当の葛藤が考えられる。私は不用意なコンフロンテーションは相談者に予想以上に心的な負担をかけるおそれがあると思う。よって、私は相談者の心身のコンディションに細心の注意を払うとともに、その効用と限界をわきまえて、さらにそれがプロセス全体に及ぼす影響を十分に鑑みてはじめてアプローチすることにしている。
|