現在、日本企業のメンタルヘルスサービスは、従業員5,000人以上の企業のほぼ80%が、全国平均では約24%の企業が実施している。それらのサービス内容や程度は様々だが、大きく分けて二つの方向へと発展するであろう。一つは、厚生労働省の方針を受けて産業医と産業保健スタッフが推進する業務起因性の精神障害者の発見・治療・職場復帰システムの充実。もう一つは、人事部門指導による社員のジョブ・エンゲージメント(積極的就業態度)向上である。
前者は福祉的観点による企業の取り組みであり、従来からの精神障害者の発見→職場復帰までの事後対策的対応に加え、精神障害の前駆状態を早期に発見し予防的に対処する事前対策的対応が2000年に入って目立ってきた。昨今話題の社内においてのみ憂うつ感と不安感が高まって生産性が低下するが、社外では元気を取り戻す「社内うつ」社員ないし職場不適応社員への対策をいくつもの企業が取り入れ始めたのはその現れである。精神障害者の企業内発生率は、医学的治療の必要なうつ病が増加しているとはいえ従業員の5%程度であるのに反し、職場不適応者は15%にも上るからである。職場不適応状態は軽度の適応障害であり、放置すると医学的治療の対象となるうつ病やうつ状態へと発展する。
このような現状に応え、EAP(Employee Assistance Program・従業員支援プログラム)のサービスを行う健康サービス提供機関のなかには、個人、組織のストレス状況をリアルタイムで測定できるウェブベースのシステムを開発して、事前対応的なメンタルヘルス管理を低コストで提供する業者も現れている。また、社員にストレス因への対処方法(ストレスコーピング)を教示し、管理職者には組織のストレスマネジメントのノウハウを教えるストレスエデュケーションも普及し始めている。今後、この種の事前対策予防型対応は多くの企業に取り入れられ、新しい視点からの職場ストレス対策として発展するに違いない。しかし、職場ストレス対策は、マイナス要因を取り除くことはできても積極的に社員の就業意欲を高める事にはならない点を忘れてはならない。
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