| 2.人事情報の費用問題
伝統的な日本企業で行われていたフェース・ツー・フェースの水平的調整(コミュニケーション)の費用は、互いに相手の仕事を理解する企業特殊総合技能を高めることによって節約されます。それゆえ、日本企業の人事部は、定期異動の機会を利用して、適材を選抜し管轄を越えて配置しようと努力してきました。人事部がこのような努力をすればするほど人事情報の費用は高まります。というのは、社内労働市場において管轄を越える人材取引(異動)を調整する主体間(人事部とライン管理職)に人事情報の偏在があるからです。
ここで人事情報の費用を概念的に整理すれば、次の2つの種類のものが構想できます。
(1)情報の非開示インセンティブに由来する費用
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社員個別の人事情報をたくさん持っているライン管理職が、それを人事部に開示することに対して、逆インセンティブを持つ結果、開示と引き換えに何かを与えることによってしか、ライン管理職に情報を開示させることができない。その結果、 |
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A) |
引き換えに与えるものが用意できるなら、それが直接の費用となる。 |
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B) |
引き換えに与えるものが用意できないなら、開示させることはできず、情報利用の可能性が失われるという費用が生じる。 |
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このタイプの費用を「人事情報の非対称性費用」と呼びます。人材の抱え込みや玉石混交人事はその例です。 |
| (2)情報の探索と移転に由来する費用 |
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社員個別の人事情報をたくさん持っているライン管理職が、たとえそれを人事部に開示することに対して逆インセンティブを持たなくても、人事部がその情報を利用できる状態にするには、情報を得るということに本質的に付随する費用がかかる。それは、 |
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A) |
人事情報は組織内に分散しているため、その情報に到達するための費用がかかる(情報探索費用)。 |
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B) |
仮にそのような情報に到達できたとしても、それは情報を持っている本人には理解できても、他人には理解できない。つまり、その情報を理解する上で、特別な能力が必要となるので、その能力を用意するための費用がかかる(情報移転費用)。 |
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このタイプの費用を「人事情報の粘着性費用」と呼びます。人事スタッフの人事情報の収集・活用能力を高めるトレーニングや、人事スタッフの人事情報の収集活動(面談、観察、聞き取りなど)にかける費用はその例です。 |
日本型組織モードは、人事部が社員個別の精確な情報を蓄積していることを条件に成立していました。しかし、インセンティブ制度の職務主義への転換や人事権のライン分権が進むような変化があれば、人事情報の非対称性と粘着性によって、人事情報を収集・活用するための費用が増大します。それゆえ、人事管理はこの問題を解決するように進化すると予測できます。
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