キャリア ナウ  

2006年10月10日配信
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個人の自律的キャリア開発と日本型組織モード 【その2】
【3】
神戸大学大学院 経営学研究科 教授   平野 光俊
3.日本型組織モードの変化と環境適応

 90年代から現在まで日本企業は、このような伝統的な組織モードを環境変化に適応させようと試行錯誤してきました。その適応行動は人事管理という組織モードの一方の活動の修正のみでは完結しません。組織モードの設計者(経営者、ゼネラルマネジャー、人事部)が実践すべきは、情報システムと人事管理を同時に修正して、新しい補完関係をつくり出すことにありました。
 その中心的な課題は、ICT(情報通信技術)や、それを基礎とした業務プロセスのモジュール化といった技術革新をうまく利用して、仕事のコーディネーション(調整)をデジタル化することにありました。たとえば、これまで人間同士がフェイス・ツー・フェイスで行ってきたコミュニケーション活動を、電子的なデジタル・プログラムやデジタル・ネットワークを利用して一層迅速に、大規模に、安価に、空間の制約をも克服して行えるようにすることでした。コミュニケーションのデジタル化は、複雑な作業プロセスを同時並行化し、その処理スピードを迅速にするのです。
 そして、このような取組みはアメリカ企業のほうが日本よりも得意でした。その結果、国際競争の観点から見れば、ICTの情報システムへの活用は、これまで日本企業が得意としてきた暗黙的な情報を共有するチームワークの比較優位を縮小せしめるように作用しました。日本企業はICTをうまく取り込んだアメリカ型組織モードに大いに学ぶ必要があったのです。しかし、日本型組織モードの強みの全てを放棄して、アメリカ型組織モードを真似るだけでは国際的な競争優位を取り戻すことはできません。
 情報システムがデジタル化した現代の環境において重要なことは、日本企業が、従前から得意としてきたチームワークから生じる付加価値と、個人の自律的なイニシアチブからもたらされる付加価値を同時に追求していくことです。人事管理の観点から言えば、企業の中に分散する知識を結合して新たな付加価値を創出する「マネジメント人材」と、特定分野の専門家として新しい付加価値を創出する「エキスパート人材」という異なる2つのタイプの人材の獲得・育成・組合せが喫緊の課題となってきたといえます。
 90年代以降、日本企業に導入・拡充された2つの新しい人事施策として、(1)「自律的キャリア開発支援」と、(2)「経営人材の選抜・育成」がクローズアップされた理由はここにあります。(1)は『エキスパート人材』に対応し、(2)は『マネジメント人材』に対応します。つまり、エキスパート人材に対しては、働く意欲・ニーズに応じた専門的な教育プログラムを準備するとともに、専門性を高めるのに必要なキャリア開発の計画と遂行を個人の主体性と責任の下に行うようにする必要があります。このような取組みは、個人の付加価値を生み出す専門能力を発展させるように作用します。同時に、エキスパート人材のイニシアチブから生まれた知識をうまく結合して新たな付加価値を生み出す人材、すなわちマネジメント人材の選抜・育成体系を本社人事部主導で管理することも要請されています。
 「自律的キャリア開発」は、モジュール化した分業体制をデジタル化した情報共有の仕組みで繋ぐという組織モードの一方の活動、すなわち情報システムの変化に適合した人的資源(エキスパート人材)を供給するという意味で、補完的に機能しているといえます。

☆平野先生には、次号についてもご執筆をお願いしています。☆
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