キャリア ナウ 次号

【創刊号】2004年4月10日配信
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キャリアとは
職業心理学研究者、元筑波大学教授   木村 周   《プロフィール》
 今日、「キャリア」という言葉が使われるが、あまりその含意は検討されない。しかし、キャリア・コンサルタントやカウンセラーがキャリアをどう考えるかは、キャリア・コンサルティングや個人の支援を行う場合に決定的な影響を与えると私は日頃考えている。そこでキャリアの持つ意味について考える。

1.キャリアの意味
 英語の大辞典を引くと、キャリアは生涯、職業、成功、履歴、専門などと訳されている。
 研究分野での定義も様々だが、職業心理学では例えば「人が生涯を通じて関わる一連の労働や余暇を含むライフスタイル」のように人間の発達、自己概念、能力・特性などを重視したものが多い。一方、組織心理学、社会学では「組織において階級の上昇を示す外的キャリアと、個人の自己概念を現す内的キャリアを合わせた概念」のように組織との関連における個人の職業上の移動や自己役割を意味するものが多い。
 また、職業との関連を重視すれば、同一の仕事内容と責任の程度を表す「職務」や、産業と職業を区別する「何らかの報酬を得ることを目的とする継続的な人間活動」という職業の定義もキャリアの中核概念である。

2.キャリアの意味の変化
 キャリアに関する支援やカウンセリングは、もともとアメリカで発生し、我が国に導入され今日に至った。そのアメリカでも前世紀から今日に至る長い年月「職業からキャリアへの転換」の歴史の中で次第にその概念が定着してきたと言われる。
 職業心理学で1950年代に行われたキャリアの再定義は、これからのキャリアの意味を考えるに当たっての基本的な含意を示していると私は考える。その要点は、キャリアとは、(1)人生を構成する一連の出来事、(2)自己発達の中で労働への個人の関与として表現される職業と、人生の他の役割の連鎖、(3) 青年期から引退期に至る報酬、無報酬の一連の地位、(4)それには学生、雇用者、年金生活者などの役割や、副業、家族、市民の役割も含まれる。というものである。

3.あなたはキャリアをどう考えるか。
 あなたがキャリアをどう考えるかによってキャリア・コンサルティングやカウンセリングは全く異なる。それは人間の人生、生き方、人間観に関わることであり、特に、労働や働くことをどう考えるかである。それは、労働を苦痛と考えるか、アイデンティティーさらには天職と考えるかという西洋と東洋の職業観にまでさかのぼるかもしれない。
 若者の仕事や労働離れが指摘されて久しい。働くより快楽、快適、余暇が優先される傾向が中年にも及んでいるといわれる。しかし、私は現在のところ、「自分の価値を自分で認識し、他人によっても認識される。すなわち、個人の存在価値を認識出来る場」は、広い意味の働くこと、すなわちキャリアの中にしか存在しないと考えている。余暇や遊びは働くことに取って代わることは出来ない。あるいは、働くことの中に道楽や快楽を取り込んだものがキャリアだと考える。あなたは、働くことの人間化をどう実現させるかをキャリア・コンサルティングやカウンセリングの中で問われている。
 では、どんな働き方が人を人間化するのか、過去の知見を紹介して本稿を終わる。

(1) 労働の内容に手応えがあること。単に忍耐を要するだけでなく適当な変化があること。
(2) 仕事から学ぶことがあること。継続的に妥当な量の学習があること。
(3) 自分で判断する余地があること。自分の責任で考え、決められること。
(4) 人間的なつながりがあること。同じ職場の人々が互いに他人を認めあっていること。
(5) 仕事に社会的な意義があること。自分の労働を社会とつなげて考えられること。
(6) 将来にとってプラスになること。何らかの意味でよき将来につながること。
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