キャリア形成推進マガジン
キャリアに関する研究者からの提言 【キャリア・ナウ】

2008年11月10日配信
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キャリア支援プロフェッショナルのキャリア ― アイデンティティ
【2】
EDGE HUMAN CAPITAL Inc.代表  藤井 博
事例:あるエージェントの転機

・失敗と転機
 A氏は、大学卒業後、外資系企業でマーケティング、経営企画の仕事に携わり、社会人大学院で経営学修士の学位を取得した後、アウトプレイスメント企業に転職した。同企業では10年来、ヘッドハンティングを担当し、またその間にキャリア・カウンセラーの資格を取得して面談スキルにも磨きをかけ、企業からも個人からも信頼の厚いエージェントとして活躍していた。あるとき彼が働く部署がある企業の人員削減を支援するため、技術者200名の再就職先の転職を請け負うことになった。彼がリーダーを務めるチームには、50余名が登録し、メンバーは一人平均して10名を受け持つことになった。大きな仕事だったので、研究者一人ひとりのカウンセリングを丁寧に行い、ニーズの把握には通常よりも多くの時間が投入された。研究者のキャリアとニーズが類似しているため、その多くが一定の企業の同一ポストを希望するであろうことは予想していた。A氏は、あえて、バッティング(重複)を避けない戦略を採ることにした。たくさん紹介すれば、どれかは誰かに当たるだろう、という安易な考えではない。彼には、キャリアは本来自律的に築いてゆくものであり、希望するところには適性の有無に関わらず、チャレンジングさせたほうが後悔しなくてよい。最終的には市場原理が働き、適所適材におさまるものだ、という経験知に基づいた持論があった。この戦略は企業の人事担当者にも説明しておいた。果たして、研究者の数名が同一企業の同一ポストを希望するということが起こった。それは、研究者同士による情報交換によって知ることになる。結果、この件に関して人事に苦情が入り、事の重大さを理解した人事からA氏に対して、事態が悪化してしまったとのフィードバックを得ることになった。

 A氏の失敗の原因は、重複紹介が一概に問題になるというわけではない。重複しないように紹介するとなると、最適な組み合わせという観点からは、ある研究者にとっては利益になり、ある研究者にとっては不利益につながる可能性があるからだ。転職希望者に市場原理を導入して真の適材適所を導く、という彼の持論が転職エージェントとして適切か否かというと、賛否両論があろう。A氏が持論をもつこと自体には問題はない(それが偏見に基づいてなければ)。彼の失敗は、彼の仕事観あるいは仕事のスタンス=ビジネスとしての成功にバランスをとる=がもとで、キャリア支援という仕事の基本を欠いていたこと、にある。

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