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JAVADA情報マガジン フロントライン‐キャリア開発の最前線-

2012年2月号

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改めて考える~内的キャリアとキャリア開発
第3回 人事システムへの展開~個と組織の共生

有限会社キャリアスケープ・コンサルティング 代表 小野田 博之 氏 《プロフィール

前回は「適材適所」を手がかりとして、個人が自分自身のキャリアを考えるにあたって内的キャリアという観点を持つことの意味を、個人と組織の共生関係の構築という面から説明しました。

組織にとって必要なこと、なすべき事を端的に表現するならば、P.F.ドラッカーのいうように「顧客を創造すること」といえます。そのためには不断のマーケティング、イノベーションが欠かせませんが、それを実際に担当するのは顧客の近く、製品・サービスの近くにいる現場の働き手です。彼/彼女らが日々の業務の中でよく見て、考え、行動することにその源泉はあります。そうした活動を一所懸命に行おうとする外的/内的状況を整えることに内的キャリア自覚を前提とした適材適所という考え方は貢献するでしょう。そしてこれを効率的に実現できるようにするのが「人事システム(人事制度)」の役割です。

 

○職能資格制度と複線型人事

現在、日本で多く導入されている人事システムに職能資格制度があります。ごく簡単に表現するならば、一人一人の職能(職務遂行能力)に合わせて社内的な等級(あるいは資格呼称)を付与し、これに基づいて給与や賞与などの処遇、あるいはその根拠となる評価の内容と方法、また管理職への任命を決定するというものです。

この制度にはいろいろなメリットがあります。たとえば年齢や勤続年数といった「経年」によるものではなく「職能」という本人の能力の高さに応じた処遇ができるということです。運用に間違いがなければ、年齢と処遇が連動してしまい実際の貢献とが乖離(かいり)してしまうという意味での年功序列(むしろ"年々序列"の方が意味合いとしては近いでしょう)になることを回避できるという点です。

管理職位が上がる「昇進」とは別に、社内等級が上がる「昇級」という階段を設定することで社内の競争状態をより広範に、長く維持できるという点もメリットとして挙げられます。

昇進はポストに空きがなければ実現できません。高度成長期のように組織がどんどん膨らんでいき、また働き手が不足している状態であれば多くのポストを準備できますから、誰でもが自分もそうなれるかもしれないと考え、昇進競争がうまく機能します。社内に切磋琢磨しようという雰囲気が生まれます。

しかし成長が緩やかに、そしてマイナス成長にさえなるとポストは枯渇します。さらに組織のフラット化や経営効率化を目的にした子会社/関連会社の吸収合併もその傾向を加速します。その結果、昇進の候補者は絞られ、モチベーション向上に寄与する要因としての機能も限定的になってしまいます。

それに対し社内等級の方は、限度はありますが組織のあり方とは関係なく設定できます。その結果、昇進競争とは別に昇格を巡る競争状態をつくることができます。しかもこちらにはより多くの人が対象となり得るので、組織内のモチベーションの維持を図れるわけです。

昇格の判定基準に専門性といった管理職とは別の要素を加えることができるのもメリットの一つです。つまり管理職としての能力だけでなく、たとえば研究開発部門などであればその領域における専門性の高さ、管理部門などであれば担当業務に対する経験/造詣の深さを基準として昇格を判断することもできます。

「マネジメント(管理職)コース」「スペシャリスト(専門職)コース」「エキスパート(専任職)コース」などのようにコース分けする複線型人事もこれに該当します。こうすることで経営管理という面では十分ではないけれど、それぞれの領域で専門性の高い人を「専門管理職(専任管理職)」として処遇できるようになり、本人のモチベーション維持を図れ、外部への流出を防ぐこともできます。

 

○職能資格制度の曖昧な運用が生んだ弊害

いろいろなメリットのある制度ですが、運用を誤り、行き詰まるケースもあります。

たとえば、職務遂行能力で格付けするのであれば能力の低下がみられたときは等級を下げなければなりませんが、現実にはなかなか実行されませんでした。管理職としてのポストから外すに当たって、肩書きだけを外し、等級はそのまま留め置くのです。結果的に同じ社内等級の中に現役管理職、専門職、専任職、そして「管理職には不適格だった人」が混在することとなります。このことで社内等級の格付け定義が曖昧になってしまいます。

現役管理職には肩書きもあり、管理職手当が付きますし、実際に相応の役割があるので本人に実感、充足感はあるでしょう。周囲も肩書きと役割が一致しているので分かりやすく、指示命令権者であるとして接するでしょう。しかし専門職や専任職は、その個別的な技量の高さをもってその等級を付与されているのですから、管理職から外れた人がそうしたものの裏付けはないのに同じ格付けとされるのは納得しづらいものがあるのではないでしょうか。

専門職/専任職においても、専門性が低下しても、「本人のモチベーションに影響するから」と社内等級を下げないことも多くあります。こうして社内等級の格付けが職務遂行能力の高さを示さなくなってしまい、形骸化し、年々序列化してしまうのです。

年々序列化するということは、長くいた方が有利ですから、何かにチャレンジするなどのリスクを冒すよりも、大過なく過ごす方が戦略的妥当性を持つことになります。イノベーションをはかるよりも、やりなれたことを繰り返しやっている方がよいことになってしまいます。

さらに専門性を磨くことも指向しなくなります。なぜなら専門性を磨くということは、ある領域に特化するということです。しかし長くいようとすれば、とりあえず一通りのことをこなせる方が無難です。あえて絞り込んでいると、その領域から組織が撤退することになると自分の専門領域も失うことになりかねません。組織の方も「ジェネラリスト指向」と称していろいろな経験を積む方がよいとしていればなおさらです。

この結果、自分が将来何をするかは自分でこうと決めるよりも、会社任せにしていた方がよく、それにいつでも対処し、いわれたらその通りにやろうという行動原則が幅をきかせるようになります。

目線は内部と過去に向きます。マーケティング(顧客、外部)とイノベーション(創造、将来)とは逆の方向に向いてしまうのです。

 

○人から役割へ~キャリアアイランド

職能資格制度を否定しているわけではありませんが、等級の基準が「人の能力」で、どこの部門/職務でも使えるように記されますから、どうしても丸めた、曖昧な表現にならざるを得ません。このように具体的な情報がほとんどない中では自分の内的キャリアを軸に適材適所を考えるのは難しくなります。もう少し具体的な手がかりを示す方法はないのでしょうか? ほとんどの会社に備えられている組織図にそのヒントはありそうです。

組織内には様々な役割があります。これらをざっと確認するには組織図を見るのが早道です。なぜなら組織図は組織が顧客を創造し続けるための機能を部署名として記したものだからです。マーケティングとイノベーションのための役割、機能を指示命令系統に合わせて図式化したものが組織図であるともいえるでしょう。そこにあるのは組織として経営理念を実現するための役割分担なのです。

留意しておきたいのは序列ではなく機能、指示命令関係を示したものであるということです。部長の方が課長よりも、社長の方が部長よりも偉いと考える風潮がありますが、これは何をもって「偉い」といっているのでしょうか。機能分担という観点に立つと、そこには「偉い」かどうかという基準はありません。どのような機能を担っているか、その機能の「顧客の創造」への寄与はどの程度かという点のみです。

「管理職は部下に対する殺生与奪の権限を持つ」といわれることがあります。確かに評価などによって処遇を変えたり、あるいは職務配分を決めたりする権限を持っているでしょう。しかしこれは人間としての上下を決めているわけではありません。あくまで機能を達成するための役割分担です。その点を勘違いしている人が、管理職になったとたんに言動が変わったり、あるいは専横な行動に走ったりするのです。その意味では組織図を縦に書かずにフラットに書いてみればよいのです。そうすれば紙の上での上下を別のものと誤解することがありません。

さらに役職名だけでなく、一般社員層のところには担当職務による役割名を書いて丸で囲めば、社長(あるいは取締役会、経営会議)を中心に、丸で囲んだ役割が島(islands)のように配置された地図になります。管理職位も含めて一つ一つの役割を島に見立てれば、その組織の機能的なマップ=Career Islands(キャリアアイランド)ができあがります。

それぞれの役割は組織経営へのインパクトが異なります。その程度を社内的な格付けに用いたのが「職務等級(あるいは役割等級)」という考え方です。職能資格制度が人の能力に基づいて人を格付けするのに対して、役割に着眼して格付けをする点が大きく異なります。人から職務へのパラダイムシフトです。そしてキャリア開発を考えるとは、この島をどのように渡り、最終的にはどこにいたいかを考えるということになります。

 

○キャリアアイランドでの生活

1)島での暮らしぶり=職務等級と報酬水準

それぞれの役割にはそれぞれの仕事、働き方があります。仕事の中身は職務記述書(Job description、日本ではなじみがないので職務分掌規定で代用することも可能)で示されます。これを見れば、仕事の内容がわかるだけでなく、そこに行くにはどんな経験や知識、あるいは資格が必要かを類推することもできます。

またおおよその処遇も決まります。同じ役割を担っているのに処遇が大きく変わることは不合理です。その意味では職能資格制度では能力の高さ、つまり職能等級に見合った処遇を行う「職能給」が主体でしたが、キャリアアイランドでは役割がはじめにあるのですから、むしろ「職務給」とすべきでしょう。あるいは同程度の役割貢献度を持つ島(役割)を格付けする「職務等級(役割等級)」を用いて、これに基づいて処遇を決定する「職務等級給」も妥当でしょう。

組織に対する役割の貢献度という観点で考えますから、専門的な知識や特徴的な経験を必要とする役割の方が、その部門の長よりも高くなることもあるでしょう。それはそれでよいと割り切れるかどうかがポイントです。

指示命令関係と処遇の高さを連動させる必要はありません。企業によっては「危険手当」という手当を支給しているところがあります。名前の通り危険を伴う業務に従事している人に支給するものです。このように、特定の役割に対して手当を支給することは制度上可能です。この考えを援用すれば、なり手は少ないけれど重要な役割の島は職務等級に限らず処遇を高くするという考え方もあります。逆にいくらでもなり手のいる役割であればそれほど処遇を高くする必要はないかもしれません。処遇の高さ=役職の高さ(責任の重さや経営への影響度ではなく)という固定観念に囚われないことが重要です。

2)島の人口=所定人員と競合

なり手の多さという意味で言えば、それぞれの島(役割)には当然定員があります。島はあくまでも経営理念の実現に向けた事業活動のためにあるからです。とすればそこに競争の原理は働きます。

このことが徹底されるならば、定年を廃止することさえ可能です。なぜなら求められる仕事ができるかどうかに着眼すればよいだけのことだからです。その仕事、その処遇でよろしければいつまでいてもらってもかまわないわけです。逆に日々安閑としていたのではその席(籍)を失うこともあるのです。

3)島から島へ=人事異動とキャリアプラン

他の役割の島へと移っていくことが人事異動に当たります。

このとき、当面のことではなく長期的な島巡り計画を立てることがキャリアプランを立てることに相当します。それぞれの島の内容は職務記述書などで明らかにされているのですから、検討しやすくなります。島の中央を目指していく(つまり昇進を指向する)のもよいですし、一定のゾーンを行ったり来たりする (専門職、専任職を指向する)のもよいでしょう。いろんな島を巡りながら、つまり職務経験を積みながら考えてもよいですし、またいつでも変更することができます。

大きな組織になればこのキャリア諸島群はかなり広範なものとなります。人によっては大きな海図の中に放り出されたように感じるかもしれません。自分はどのように島巡りをしていきたいのか、どんな島に住みたいのかを自分なりに考える必要があるからです。

そこでモデルツアーともいえる、キャリアパターンをいくつか示すことも効果的でしょう。その組織における典型的なキャリアモデルということになります。ただしあくまでもモデルであり、納得のいく仕事人生ツアーをするためには自分なりの指向性、E.H.シャインの言葉を借りればキャリア・アンカーを理解していることが役に立つでしょう。


〔脚注〕

  • ここでいうシステムとは目的を達成するために整えられたいくつかの制度、仕組みの体系を指しています。人事・労務管理向けの情報処理機構という意味ではありません。
  • 労務行政研究所の調査(2010)では、一般社員層において76.1%、管理職層では60.3%が何らかの形でこの考え方を取り入れています。
  • 昇格を判断する際に「現等級での○年以上の経験」という条件を設定したり、「評価でAを3回以上獲得していること」「累積ポイントが○点以上」といった時間を必要とするものを考慮したりすると年々序列化が進みやすくなります。一定年数を経過すると自動的に昇格する「最長年数」を設定しているとなおさらです。
  • たとえば昇進であれば、指示命令体系をはっきりさせるという意味から一つの課に課長は通常一人しか任命できません。しかし課長と同等の社内等級を持つ人は組織にとっての人件費負担が増大するという側面はあるものの、何人でも置くことができます。
  • 同一等級のほかの社員にもたとえば専門課長手当といったものが付くことはありますが、金額では差が設けられていることがほとんどです。結果的に職務遂行能力の高さは同じだけれども、同じ重要性を担っているわけではないというメッセージを発しているのと同じことなので、専門職/専任職から見るとあまり心地のよいものではないと思います。
  • 専門性はそのままでも内容が陳腐化していたり、その領域の経営における重要度が減少したりしていることもあります。
  • この点は職能資格制度の使い勝手の良さでもある点に留意が必要です。
  • 詳細に見ると「職務そのもの」に対して等級を設定する場合と、職務を担っている「人」に対して設定する場合と2通りのものがあります。
  • 厚生労働省の委託を受けて中央職業能力開発協会が順次とりまとめている「職業能力評価基準」を用いることも有用です。

 

 

 

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